この勝利でクロフォードは、男子ボクサーとして4団体時代に前例のない3階級での 4団体統一王者に輝いた。さらに、5階級制覇王者として14ポンド上げて挑戦し、これまでウェルター級で最高の実績を残してきた彼に「大きすぎる、強すぎる」と疑念を抱いていた批評家を黙らせる形で、同世代の偉大なチャンピオンに挑む決断の正しさを証明した。
マルティネス対エムビリは、30分間ノンストップのサベージ・ファイト。記憶に残る壮絶な打ち合いとなった。グアテマラ出身のマルティネスとモントリオール出身のエムビリは、普通のボクサーなら心が折れるほどの激しい殴り合いを交互に繰り広げた。
それでも二人は最後のゴングまで殴り合いをやめず、その残虐な死闘はスプリットドローという妥当な結果に終わった。
ジャッジのパトリシア・モース・ジャーマンは97-93で
マルティネスを支持し、最も大差をつけた。クリス・ミリオーレは96-94で
エムビリに軍配を上げ、グレン・フェルドマンは95-95でドローと採点した。
アルバレス対クロフォードのアンダーカードに登場した他の選手たちとは違い、マルティネスとエムビリはその舞台を存分に生かし、一瞬でクラシックと呼べる試合を演じてみせた。まさにトゥルキ・アル・シェイクが求めていた、手に汗握る打ち合いと攻防の応酬で、観客に「もっと見たい」と思わせる熱戦を提供したのだ。
そしてファンが望む「もっと」は、マルティネス対エムビリの再戦という形で実現すべきだ。土曜夜に浴びた容赦なき打撃戦からしっかり休養を取った後、トゥルキ・アル・シェイクはマルティネス(19勝0敗1分、16KO)とエムビリ(29勝0敗1分、24KO)が再び拳を交える決断を下せるよう、可能な限り経済的な価値を持たせるべきだろう。
クロフォード(42勝0敗、31KO)もアルバレス(63勝3敗2分、39KO)もマルティネスやエムビリとの対戦は視野に入れないはずであり、168ポンドで彼らにとってこれ以上大きな試合は存在しない。リヤド・シーズンには、その再戦を「断れない」ものにするリソースが十分にある。
土曜夜に繰り広げられた驚異的な殴り合いを目撃した後は、マルティネスとエムビリが初戦と同じように再戦へ意欲を燃やしてくれることを願うばかりだ。
クロフォードがP4P論争に終止符を打つ
数時間後に井上尚弥が見事なパフォーマンスを披露したとしても、クロフォードがアルバレスを完封した勝利は、当面の間P4P論争に終止符を打つものと言える。
2階級も一気に上げ、アルバレスのような実力者を下した事実は、これまでクロフォードより
ウシクや
井上をP4Pリストで上位に置いていた人々にとっても、無視することのできないものだ。
井上(31勝0敗、27KO)は、日曜に日本・名古屋で
ウズベキスタンのサウスポー、ムロジョン・アフマダリエフ(14勝2敗、11KO)を圧倒し、自らの実力を存分に示した。しかし122ポンドでの4団体統一王者にとって不運だったのは、クロフォードが「戦うことすら想像できなかった相手」に勝利したことで、自身の快勝がレガシーを決定づける大勝利にかき消されてしまったことだ。
正しい試合、間違ったタイミング
土曜夜のアレジアント・スタジアムでは多くのことがうまくいったが、TKO/ズッファ・ボクシングとNetflixは、アルバレス対クロフォードを午前0時55分(米東部時間)に始めるのではなく、もっと早くスタートさせるべきだった。
アメリカ東海岸のボクシングファンからよく聞かれる不満のひとつが、「メインイベントの開始時間が遅すぎる」という点だ。特にPPVが75ドル以上する時にはなおさらだ。今回必要だったのはNetflixのサブスクリプションだけ——ただし地域によっては、大量のカフェインも必要だったかもしれない。クロフォードがアルバレスを下す瞬間を見届けるために。
価格設定は良心的だったが、マイケル・バッファーがクロフォードの勝利をアナウンスしたのは午前2時近くだった。10試合ものカードを複数プラットフォームで早めに開始し、Netflixへの移行後に無駄な時間を削れば、こんな事態は避けられたはずだ。
もしゴングがもっと早く鳴っていれば、カネロ対クロフォードの総視聴者数は、月曜にNetflixが発表した4140万人を上回っていただろう。アメリカ国内だけで推定2030万人が視聴したという。
さらに言えば、Netflixの配信は午後9時ではなく午後8時(米東部時間)に始めるべきだった。ショウタイムはボクシング中継37年の終盤、PPV4試合構成の開始時間を1時間前倒しし、東海岸のファンから一定の支持を得ていた。
Netflixは世界3億人以上の加入者に向けてアルバレス対クロフォードを配信したとはいえ、主なターゲットは米国内、特に東部時間帯に住む数千万人のファンだった。
放送局がスーパーボウルを午前1時に放送しないのは、視聴者を何百万人も逃すことになるからだ。
カネロ対クロフォードは「ボクシング版スーパーボウル」であり、ビジネス面ではメイウェザー対パッキャオ以来10年ぶりにアメリカで最重要の一戦だった。それだけに、もっと適切な時間に配信されるべきだった。ボクシング最高峰を世界中の何千万というファンに届ける絶好のチャンスだったのだから。
最終ゴング
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ラモント・ローチがアイザック・クルスと対戦することになったのは、実にしっくりくる展開だ。クルスは、12ラウンドの死闘があまりに厳しかったため、ジャーボンテイ・デービスが唯一リマッチを拒んだ相手だ。ローチ(25勝1敗2分、10KO)と、WBC暫定140ポンド王者のクルス(28勝3敗1分、18KO)は、12月に激突する見込み。なお、デービスとローチの再戦は2度延期された末に、
WBAライト級王者デービスがジェイク・ポールとの試合を11月14日にアトランタのステートファーム・アリーナで行うと発表された。
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アメリカのジャーメイン・フランクリンとカザフスタンのイワン・ディチコは、アルバレス対クロフォードのアンダーカードで、自分たちに課された重要性を理解しているかのような戦いを見せることができなかった。内容に乏しい一戦は、フランクリン(24勝2敗、15KO)が判定で勝利したが、それは36歳のディチコ(15勝1敗、14KO)が2012年と2016年の五輪出場後、いかに慎重にマッチメークされてきたかを示す以上のものではなかった。
■ まだガブリエラ・フンドラの試合を観たことがないなら要注目だ。女子ボクシング最高峰のひとりが、
ザ・リング、IBF、WBA、WBC、WBOのフライ級王座を懸け、アレクサス・クビッキと対戦する。試合は土曜夜、カリフォルニア州インディオのファンタジー・スプリングス・リゾート・カジノから
DAZNで配信され、10回戦112ポンドのセミメインイベントとして行われる(米東部時間午後8時)。
セバスチャン・フンドラの妹である彼女は、テクニカルスキルとアグレッションを兼ね備えたスタイルを確立しつつある。特に女子がより多くの視聴者を惹きつけようとする時、KOは最大の売り物だと理解しているのだ。コーチェラ出身のフンドラ(16勝0敗、8KO)は、直近5試合のうち4試合をKOで決着させている。一方、カナダのクビッキ(13勝2敗、1KO)はこれまで一度も倒されたことがない。
Keith Idec は『ザ・リング』の上級ライター兼コラムニスト。Xでは @idecboxing で連絡可能。