待ちに待った
カネロ・アルバレス vs.
テレンス・クロフォードが、いよいよ幕を開ける。
両者は今週土曜、ラスベガスのアレジアント・スタジアムで激突。試合はNetflixを通じて世界に配信される。
グアダラハラ出身の
アルバレス(63勝2敗2分39KO)は、4階級制覇、そして2度の4団体統一を成し遂げた王者。35歳の彼は、今年5月3日に
ウィリアム・スカルを判定で下してこの試合に臨む。一方、ネブラスカ州オマハ出身のクロフォード(41勝無敗31KO)も4階級制覇、2度の4団体統一を達成した名王者。37歳の彼は、昨年
イスラエル・マドリモフを判定で破って以来13カ月ぶりのリングとなり、今回はスーパーミドル級デビュー戦となる。
この記事では、ラスベガスの“シン・シティ”で行われるメガファイトを前に、ボクシング界の名だたる選手、トレーナー、プロモーター、解説者らによるプレビュー、分析、そして勝敗予想を紹介する。
ジム・ランプリー(国際ボクシング名誉の殿堂入り実況アナウンサー)
「このスポーツの中で最も偉大で、最も知的な2人だ。彼らがいまの地位にたどり着いたのは、深く考える頭脳と、自分を正しく見つめる力があったからにほかならない。
カネロは自己認識の高さやボクシングへのアプローチを理解する力において無二の存在だ。そしてその点でカネロと同じレベルにいる唯一の人物が、テレンス・クロフォードだ。…本当に素晴らしい対戦で、試合を見るのが待ちきれない。
クロフォードのことは大好きだが、勝敗予想を聞かれたら、カネロ以外を選ぶ論理はないね。」
アル・バーンスタイン(国際ボクシング名誉の殿堂入りブロードキャスター)
「この試合が発表されたとき、クロフォードにとってこの階級アップは荷が重すぎると思った。どんなスポーツでもそうだが、試合が近づくにつれて、最初は不利だと見られていた選手にもチャンスがあるように感じられることがある。時間が経つにつれ、この試合は拮抗していると感じるようになった。
こういう試合では、もし『はい、どっちかにストレートで賭けろ』と言われたら、正直『その金を使いたいかどうか分からない』と思うだろう。どちらが勝っても不思議じゃない。サイズ面とクロフォードの挑戦の難しさを考えれば、わずかにカネロ寄りだが、強い確信を持ってそう言えるわけではないね。」
マックス・ケラーマン(元HBOボクシング解説者/現「Inside The Ring」司会者)
「戦術的なアドバンテージを一つずつ挙げていけば、そのほとんどはクロフォードにある。カネロが持っているのはサイズであり、その結果としてのフィジカルの強さとパンチ力だ。さらにカネロは顎が強く、テクニックもあり、クロフォードより骨格が大きい。体重が同じでも、常にカネロの方が“大きな男”なんだ。」
ロイ・ジョーンズ・ジュニア(国際ボクシング名誉の殿堂入り、元4階級制覇王者)
「正式な分析や予想はしないけど、こう言える。もしカネロが、自分にとって唯一の正しい戦い方を完璧に遂行できれば、勝つチャンスはあるし、実際に勝利する可能性もある。
だが、そうでなければクロフォードには6通りの勝ち方がある。だから俺は、勝ち筋が1つしか
ベルギル・オルティス(WBCジュニアミドル級暫定王者)
「パワーにも種類がある。カネロのパワーは止められない力のようなものだ。爆発的というより、とにかく重い。パンチがズシンと効くんだ。これはカネロへのひいきじゃなく、論理的に考えて“大きな強者は小さな強者に勝つ”ということさ。
正直、クロフォードはまず168ポンドで別の相手と戦って、この階級に慣れるべきだったと思う。いきなりカネロに飛び込むんじゃなくてね。でも彼はクロフォードだから、何が起きても不思議じゃない。確かに彼にはスキルがあるが、サイズ面ではかなり不利だ。見た目ではカネロと並んでも大きく見えるけど、計量で重く出ることと、その階級が本来の適正体重であることはまったく別だ。
だから俺はカネロが勝つと思う。ただ、クロフォードが負けてもキャリアに傷がつくことはない。勝てないとは言わないけど、クロフォードが勝つ姿は想像できないね。」
ドミトリー・ビボル(元4団体統一、現ライトヘビー級統一王者)
「クロフォードは俺のお気に入りのボクサーの一人だ。彼ならこの試合に勝てる可能性はある。ただし、どう対処するのか分からない細かい要素がたくさんある。168ポンドのパワーとプレッシャーに慣れる必要があるんだ。これは大きな違いで、単にパワーに慣れるだけじゃなく、メンタル面での準備も必要だ。恐怖や不安を抱えてリングに上がれば、体は弱くなってしまう。
カネロが他の相手――たとえば
ジャーメル・チャーロやカ
ラム・スミス――と戦ったときの違いを見たはずだ。それは減量の問題じゃなく、相手のメンタリティの問題だと思う。」
カール・フランプトン(元スーパーバンタム級&フェザー級王者)
「俺はクロフォードがカネロを倒すって言ったんだ。あれは彼がエロール・スペンスに勝ったときだった。そのときは笑われ、バカにされたよ。でも俺は本気でクロフォードがカネロに勝てると思ってる。もちろんカネロも特別なファイターだけど、彼は少し下降線に入っているんじゃないかと感じる。ただ、それでも世界トップのエリートを倒せる力はある。俺はクロフォード推しだ。判定で勝てると本気で思ってるよ。」
アントニオ・バルガス(WBAバンタム級王者)
「カネロが勝つと思う。この試合では階級の違いが大きなポイントになる。クロフォードは階級を上げて筋肉を背負うわけだからね。クロフォードの方が引き出しは多いと思うけど、決め手はパワー差になるだろう。」
ダニー・ガルシア(元2階級制覇王者)
「いい試合になると思う、戦術的な戦いになるね。ただ、体格差を考えるとカネロが判定で勝つシナリオが浮かぶ。この試合の最大要因はそこだよ。」
ノニト・ドネア(元4階級制覇王者)
「分析すると、クロフォードがスピードや持ち味を出し切ればカネロは苦戦するだろう。でももしクロフォードが踏ん張って打ち合いにいけば、パワーとインサイドの強さでカネロに分がある。」
ショーン・ポーター(元ウェルター級王者)
「これは両者にとって絶好のタイミングだと思う。どちらにも勝つチャンスがある試合だ。カネロはこれまで数多くの激戦を経験してきたが、テレンスはそうじゃない。だからコンディションや100%の状態で試合に臨めるのはクロフォードの方だと思う。カネロは今は90%の状態ってところだろう。でも、その状態でクロフォードを崩せるだけの力と準備があるのかどうか、そこがカギだ。」
ショーン・ポーター(続き)
「クロフォードを肉体的に削るんじゃなく、精神的に崩すんだ。両者にとって難題だけど、これは五分五分の試合だと思う。そしてテレンスがやり遂げると見ている。」
ジャーメイン・オルティス(ジュニアウェルター級コンテンダー/元世界挑戦者)
「クロフォードに勝ってほしい。なぜか心のどこかで、彼なら成し遂げられると感じているんだ。カネロのパワーに耐えられれば、クロフォードは勝てると思う。」
ダルトン・スミス(無敗のジュニアウェルター級コンテンダー)
「今の世代で一番好きなファイターのひとりがカネロ・アルバレスだ。週末の試合が楽しみだし、彼から学ぼうとしている。これは本当に五分五分の試合だけど、俺はカネロを推す。ちょっと贔屓目かもしれないけど、素晴らしい戦いの末に彼が勝ち切ると思う。」
オマリ・ジョーンズ(ウェルター級プロスペクト/2024年五輪銅メダリスト)
「俺はクロフォードに賭ける。彼のスキルが好きだし、決して引かないファイターだ。必ず勝ちに行くと思う。ジャーメル・チャーロが階級を上げたときのようにはならないだろう。チャーロはパワーで押し切られたけど、クロフォードはしっかり作り込んで体を仕上げてきた。
彼はより賢い戦いをして判定勝ちすると見ている。ストップはないだろう。クロフォードが集中力を保ってやるべきことをやれば、3-0の判定で勝つと思う。」
アンディ・リー(元ミドル級王者/ジョセフ・パーカー、ハムザ・シーラーズ、パディ・ドノバンのトレーナー)
「なんて試合だ。本当に勝者を予想するのは難しい。誰もクロフォードのスキルや勝負強さ、リングIQを正確に測れていない。カネロについても同じことが言えるが、彼にはサイズのアドバンテージがある。ハムザがベルランガと戦ったとき、クロフォードをニューヨークで見たけど、もう小さくは見えなかった。かなり大きく仕上がっていたよ。
両者のスキルは拮抗していて、駆け引きや戦い方を見れば、記憶に残る最高レベルの試合になるはずだ。」
アベル・サンチェス(フィリップ・フルゴヴィッチのトレーナー/ゲンナジー・ゴロフキンの長年の指導者)
「クロフォードは偉大なファイターだ。でもだからこそ階級がある。カネロのように3〜4年かけて筋力も体格も正しく作ってきたなら、もっとチャンスはあっただろう。でも14〜15カ月でやったのは厳しい。
序盤3〜4ラウンドはスピードで接戦になるだろうが、カネロが動きをつかめばクロフォードはウェイトのせいで鈍る。そうなれば、ここ4〜5戦で見られたように、カネロにとっては“スパーリング”のような展開になるだろう。」
ロバート・ガルシア(元スーパーフェザー級王者/バム・ロドリゲス、ベルギル・オルティスのトレーナー)
「紙の上ではカネロが勝つはずだ。大きくて強いし、いいパンチを当てればクロフォードを傷つけることができる。クロフォードにとって初の168ポンドだし、154でも1試合しかしておらず、そのときもベストではなかった。だから多くの人が『カネロがKOする』と思っている。
でも俺は少数派としてクロフォードにチャンスを与えている。彼は非常に才能があって、速くて頭がいい。理想的な試合運びができれば判定勝ちもあり得る。ただ、リスクの大きい試合だから賭ける気にはならない。特にカネロはパワーがあるからね。でもここ数戦のカネロは動きが鈍く、フラットフットで、一発を狙いすぎていた。もしそんなカネロがクロフォードと戦うなら、バドはアウトボクシングして3〜4発のコンビネーションをまとめ、判定で勝つ可能性もある。」
テディ・アトラス(国際ボクシング名誉の殿堂入りトレーナー/Podcast「The Fight with Teddy Atlas」)
「カネロは体格もパワーも上だ。だが、強いパンチを大量に出してこそ、その危険性は発揮される。出さなければ当たらないし、“大きな男”である意味も薄れる。パンチを出す量が少なければ、ただ大きいというだけで頭の中で危険視しているほどではない。俺の分析はそこに尽きる。」
「両者ともに試練の瞬間はあるだろうが、最終的にはクロフォードを推す。身体的な要素だけじゃなく、無形の部分――メンタルの強さ、絶妙なタイミング、氷のような冷静さがある。感情に左右されず、鋭い眼差しとレーザーのようなタイミングを持ち、精神的に“負ける”と信じていない。」
デヴィッド・コールドウェル(レロン・リチャーズ、スティーブン・ケインズ、ホーピー・プライスのトレーナー)
「ここ数戦のカネロは、ペースが遅く、足も重く、一発狙いのスタイルだった。その相手に、距離を巧みに操れるクロフォードのサウスポーが噛み合えば、判定で勝てると信じている。仮に単発を食らっても、うまく対応して連打を封じ、要所を拾ってポイントで逃げ切る可能性が高い。しかも今回はリーチ差や身長差がない。それが大きなアドバンテージになる。」
ケビン・グリーソン(ロレンツォ・メディナ、エリック・チューダーのコーチ)
「判定でカネロが勝つと思う。サイズの差と、クロフォードが急激に階級を上げたことが、この試合では決定的な要素になるだろう。」
オスカー・デラホーヤ(国際ボクシング名誉の殿堂入り/ゴールデンボーイ・プロモーションズCEO、Instagramより)
「クロフォードは2階級上げてきた上に、1年のブランクもある。これはカネロにとって大きなアドバンテージだ。試合当日のカネロは190ポンド近くあるだろうし、もし自分の圧力をかければ7~10ラウンドでクロフォードをKOできるチャンスがある。逆にそれができなければ、クロフォードがアウトボクシングして一方的に見せる展開になるかもしれない。フロイド・メイウェザーにやられたときのようにな。
クロフォードに必要なのは完璧さだ。フットワーク、スピード、コンビネーション、リングIQ、規律すべてを駆使しないといけない。カネロはクロフォードのパンチに耐えつつ、リングで楽に構えないようにすることが肝心だ。カネロが快適に戦えれば、12ラウンドなんてすぐに過ぎてしまう。
カネロを苦しめてきたのは、ディミトリー・ビボル、エリスランディ・ララ、ウィリアム・スカル、そしてメイウェザーのような“ボクサー”だ。カネロは足が重いから、そういうスタイルに弱いんだ。
ただしクロフォードの弱点は“ハート”だ。打ち合いに行ってしまうことだ。カネロのパンチを食えばダウンする、KOされる。だから判定までもつれればクロフォードの僅差勝利、7~10ラウンドならカネロのKO、そう見ている。」
エディ・ハーン(マッチルーム・ボクシングCEO)
「これはPFP同士の対戦だ。クロフォードにも十分勝機はあると思う。ただ、サイズが問題になる。カネロが衰えているのかどうか? それでも彼は戦い続け、キャンプを積み重ね、まだ闘志を燃やしている。その姿勢は本当に称賛に値する。
果たしてそれが今も続いているのか、それとも自分にそう言い聞かせているだけなのか。だがクロフォード戦には確実にモチベーションを高めて臨むだろう。
ただ、動きがカネロにとって大きな問題になる。正直に言えば、クロフォードはちょっと“つまらない戦い方”をしてでも勝たなければならない。それくらい奥深く、興味をそそる一戦だよ。」