元世界王者で現在は解説者のティモシー・ブラッドリーは、第2ラウンド中盤にリプレイされた衝撃的なフィニッシュシーンを前に、ローハン・ポランコが22勝1敗のプロ、ジャン・カルロス・トーレスを難なく片付けた様子に、賛辞を惜しまず称えた。
バレンタインデー興行のメインでは、キーショーン・デイビスがデニス・ベリンチクを圧倒し、WBO世界ライト級王座を獲得して華々しく締めくくったが、その前座で2階級上の試合にも注目が集まった。
「真っ直ぐに突き刺さるエグい右。これは井上尚弥みたいだ。前足に体重がかかりすぎず、バランスも完璧……しっかりと体重を乗せて、コンビネーションも見事だ。あのトーレスの足を見てくれ。体と頭の中で地震が起きてるような感覚だ。」
それからおよそ3か月後、現在15戦全勝(10KO)の26歳ドミニカ人、ローハン・ポランコが3連続ストップ勝ちを経て再登場。今回は自身初の10回戦で、キャリア最大の試練となるファビアン・アンドレス・マイダナ(24勝3敗、18KO)と対戦する。
まるで予言のように、ポランコは井上尚弥(29勝無敗、26KO)のアンダーカードに登場する。井上はスーパーバンタム級の絶対王者として、全米が注目する凱旋試合でラモン・カルデナス(26勝1敗、14KO)を相手に122ポンドの全王座を防衛する。
マイダナは母国アルゼンチンで2連続KO勝利を挙げて今回の試合に臨む。1年前にはマリオ・バリオス(29勝2敗1分、18KO)とのWBC世界ウェルター級暫定王座戦に挑んだが、敗北を喫している。
32歳のマイダナはその試合で第3ラウンドにダウンを喫し、3者とも116-111という判定で敗れた。この試合は、カネロ・アルバレスがメインを務めた統一スーパーミドル級戦のアンダーカードで行われたものだった。
現在、エディ・レイノソを共通のトレーナーに迎えている両者は、それぞれ異なる階級での試合を控え、今週末、サウジアラビアの首都リヤドで待ち受けるビッグマッチへの足がかりとなる一戦に臨む。
2020年東京五輪出場経験を持ち、輝かしいアマチュア実績を誇るポランコは、当初ウェルター級でプロデビューを果たしたが、目指すは複数階級制覇。これは、カネロや井上が全盛期に成し遂げた道でもある。
「我々の目標は、まず140ポンドで王座を獲ること。次に147、そして154と、順に制覇していくことでした。それがビジョンです」と、ポランコのヘッドトレーナーであるヘクター・ベルムデスはザ・リング・マガジンに語った。
WBOウェルター級王者ブライアン・ノーマンの初防衛戦として予定されていたデリエック・クエバスとの対戦は、当初11月8日に設定されていたが、スパーリング中に左手を再び負傷し、
2度目の手術を要したことで中止となった。
ポランコは、9月27日にアルゼンチンのマルセリーノ・ニコラス・ロペス(37勝4敗)を相手に2度のダウンを奪い、試合のすべてのラウンドを支配した末に6ラウンドTKO勝ちを収めたが、そのとき自分に絶好のチャンスが巡ってくる可能性があったことには気づいていなかった。
「本当はデリエックと対戦して、その勝者がノーマンとやる予定だったんだ。俺たちは“もちろんやるさ、いこうぜ”ってなったよ。でも今となっては……あいつ(ノーマン)は俺たちとはやらないだろうね。分かってるさ、これがボクシングビジネスってもんだから」と、ベルムデスは笑いながら語った。
ベルムデスは、9月27日にニューヨークで行われた試合の前日計量の場で、ポランコ対クエバスをWBO暫定王座決定戦として実施する案が浮上していたことを覚えている。その時点でトップランク関係者は、ノーマンが2025年第1四半期まで復帰できないことを把握していたが、最終的に話はまとまらなかった。
その翌週、ノーマンの負傷が公表され、同時にその可能性も忘れ去られることに。ちょうどその頃、サウジアラビアではライトヘビー級の4団体統一戦をはじめとするさまざまな注目カードが展開されていた。
それもまた、ボクシングの世界である。マサチューセッツ州スプリングフィールドでベルムデスと共に暮らすポランコは、そうした政治的な事情に振り回されることなく着実な成長を続け、印象的なパフォーマンスを見せてきたことで、影響力のある関係者たちの注目を集めている。
プロ10年目のマイダナは3敗を喫しているものの、ダウンは一度きりで、これまで一度もストップ負けはない。彼の複雑なキャリアは、ジャーボンタ・デービスのアンダーカードや、メキシコやコロンビアでのアウェー戦など、南北アメリカ各地を転戦してきた。
彼の戦績には目立ったビッグネームこそ少ないが、バクーとシンガポールでの世界ユース選手権およびユース五輪への出場経験を持つなど、アマチュア時代の実績がその実力を証明しており、決して侮れる相手ではない。
しかし、ポランコのベストショットを受けながら前に出続けるのは、また別の試練である。自身のKOパワーの源や成長の過程について問われると、トップランクと契約するこの挑戦者は原点に立ち返ってこう語る。
「試合のテンポをコントロールできるようになったし、打ち合いの中でも落ち着いていられるようになった。相手のパンチの中に留まりながらも、すべてを見渡してディフェンスに繋げられるようになったんだ。
ジムではハードワークを重ねてるし、トレーナーの教えに忠実に従っている。パンチの際に両足をしっかりと地につける意識も改善された。重要な部分を徹底的に強化し、質の高いスパーリングをこなしてきたし、マイダナの弱点も映像で研究してきた。そこを突いていくつもりだよ。」
ベルムデスも、その意識の高さに同調する。
「まだ本来の能力のすべては試合では見せていない。ジムではそれをちゃんと発揮してる。上のレベルに行く選手っていうのは、リードハンドを色々な角度で使えたり、ボディへの攻撃をどう組み立てるかが違うんだ。アマチュアではそういうボクシングはあまり教えないからね。彼のジャブや、落ち着いて攻撃の形を整える姿勢、それが彼に合ってるし、時間と共にどんどん良くなってきてる。
それに彼は本当に“意地が悪い”タイプだよ。リングの外ではとても優しくて、気遣いもできる青年だけど、一度リングに入ると本能的にスイッチが入るんだ。」
今回の試合は、ポランコにとって過去14か月で5戦目となる。試合間隔が短いことは大きな強みだが、2025年にさらに3試合を望む彼にとっては、世界タイトル挑戦へ近づくほどに、専念すべきトレーニングキャンプの重要性も増してくるだろう。
現在、WBOで世界ランキング10位、WBCでも147ポンド級で15位に位置するポランコだが、まだこなすべき課題は多い。プロとして8回戦以上の経験はなく、大きくダメージを受けたことも、真の試練に晒されたこともないのだ。
「今はただ経験を積んで、もっともっと成長したいだけなんだ」と、今回の対戦相手の選定について問われた際に彼は語った。
舞台裏では、26歳のポランコが自分より大きな選手たちとのスパーリングで鍛え上げられている。
今回は特に、WBA世界ミドル級1位のヨエンリ・エルナンデス(7勝無敗、7KO)とのスパーリングが重要な位置を占めており、あえて「打ちのめされる」環境を用意することで、本番での厳しい局面も冷静に乗り越えられるようにと考えられている。
まずは目の前の試合に集中すべき時だ。“エル・ラヨ”は今週末、再びその“獰猛な一面”を解き放つ準備が整っている。