ラスベガス発 —
井上尚弥と
ラモン・カルデナスは、日曜夜に理想的な“口直し”を提供する。
それは切実に望まれ、正直に言って、当然のごとく求められていた。
課題は明確だった──相手を弄ばず、またしても退屈なダンスを披露することなく、打撃で圧倒せよ。無意味なパンチスタッツ更新を避けるため、爆発的な拳を解き放ち、他を圧倒する破壊力を示せ。逃げるのではなく、相手を貫け。
カネロ・アルバレス、ライアン・ガルシア、デビン・ヘイニー、テオフィモ・ロペスJr.が連夜にわたって飢えたボクシングファンの期待に応えられなかった中、
タクシー運転手から番狂わせを狙う挑戦者へと転じたカルデナスが大舞台に応え、記憶に残る最も勇敢かつ驚きのパフォーマンスを披露する。第2ラウンドには井上からダウンを奪い、122ポンドの4団体統一王者と真っ向勝負を繰り広げた。
しかし将来の殿堂入りが確実視される井上は、逆境に対して見事に戦士の魂で応え、自らもダウンを奪い返すと、最終的にはカルデナスを切り刻むように圧倒し、T-Mobileアリーナに詰めかけた8,474人の観客に、熱狂の8回TKO勝利を届けた。
カルデナスが“奇跡”を掴みかけた後、陰鬱で湿ったラスベガスの空気が一変し、年間最高試合候補と称されるほどの激闘が誕生した。
井上(30勝0敗、27KO)は、4階級制覇王者であり、リング誌のパウンド・フォー・パウンドランキング2位。彼は、極めて勇敢なカルデナス(26勝2敗、14KO)をストップし、25戦連続のタイトル戦で11試合連続のストップ勝利を記録。現在のボクシング界で最も凶暴かつ魅力的なノックアウトアーティストである理由を証明した。
第8ラウンド45秒、攻勢が完全に井上に傾いた場面でレフェリーのトーマス・テイラーが試合を止めた。ジャッジ3者は全員一致で第2ラウンド以外すべてを井上に与え、スコアは68-63だった。
日本のアイコンである井上尚弥は、これまでに3度
アメリカで試合を経験していたが、今回が事実上初となる本格的な米国興行であり、BetMGMによるとオッズは−
10000の大本命だった。彼は火遊びのような危うい展開の中でリングに立ち、カルデナスはまさに1990年、マイク・タイソンが東京で42対1の大番狂わせを喫した“世紀の衝撃”の再現寸前まで迫った。
「今夜の試合を見れば、僕が打ち合い好きなのはみんな分かったと思う」と井上は語った。「(ダウンには)とても驚いたが、冷静に立て直した……ファンの皆さんの応援は素晴らしかったし、楽しんでもらえたならうれしい」
カルデナスは序盤に火のような勢いを見せたが、想像していたシンデレラ・ストーリーのような結末を迎えることはできなかった。それでも、昨年5月に東京ドームでルイス・ネリに倒されながら勝利したときと同じように、井上は接戦から立ち上がり、勝利を掴んだ。
「俺は負けなんて気にしない。大事なのは強い者同士が戦うこと」とカルデナスは言う。「ラスベガスで何千人もの前で戦うのが夢だった。そのために、全てを出しに来たんだ」
穏やかだった第1ラウンドの後、試合は第2ラウンド終盤15秒で一変。カルデナスが完璧なオーバーハンド左カウンターを炸裂させ、井上はキャリア2度目のダウンを喫する。鼻から血を流しながら、ゴングに救われる。
「初回は距離感がよかった。でも2ラウンド目で崩れてしまった。そこからは、あのパンチを二度ともらわないよう注意した」と井上は語った。
テキサス州サンアントニオ出身の29歳、メキシコ系アメリカ人のカルデナスは、試合は紙の上では決まらないことを証明。井上と真正面から立ち向かい、第3ラウンドではダブルの右と強烈な左フックを交えた打ち合いを見せた。
だが第4ラウンドの最終1分、カルデナスがタイミングを外した左フックを空振りした隙を突き、井上が猛攻を展開。このラウンドでは、井上が80発中29発をヒットさせたのに対し、カルデナスはわずか9発にとどまった。
第5ラウンドでも井上は右でプレッシャーをかけ続けたが、終了間際にカルデナスがボディショットで応戦し、試合がまだ終わっていないことをアピールした。
第6ラウンド、井上は残り90秒で“血の匂い”を感じ取り、フィニッシュを狙うように猛攻。カルデナスはロープにもたれながら笑みを浮かべ、大振りで挑発を試みたが、すでに勝機を見失っていた。井上はこのラウンドで90発中48発(うちパワーショット33)をヒットさせ、カルデナスは14発にとどまった。
戦いの第二波が始まると、シンコ・デ・マヨの週末に鳴り響いていた「メキシコ」コールは、「イノウエ」コールにかき消された。
第7ラウンド、井上はフィニッシュを狙い、終盤30秒に連打でカルデナスをダウンさせる。カルデナスはコーナーで崩れ落ちたが立ち上がり、テイラーに「大丈夫だ」と伝える。しかし――実際には、そうではなかった。
第8ラウンド開始早々、ディフェンスを失ったカルデナスは井上の連打を浴び続け、レフェリーのトーマス・テイラーが試合を止めた。
「トレーナー(ジョエル・ディアス)には“終わるときは盾の上で終わりたい”と伝えていた。実際にそうした」とカルデナス。「悲しくはないけど、悔しい気持ちはある」
この激闘で、井上は462発中176発をヒット、カルデナスは290発中80発にとどまった。
「オッズ的に差があるのは分かっていた」と井上は言った。「でも、彼がタフなのも分かっていた。ボクシングはそんなに簡単じゃない」
最近の試合で圧倒的な勝利を続けてきた井上だが、次戦は9月14日に東京でムロジョン・アフマダリエフと対戦予定。さらに12月にはWBAフェザー級王者ニック・ボールとの試合がリヤド・シーズンで行われる可能性があり、同郷でリング誌PFP8位の強打者・中谷潤人との夢の対決もその後に控えると見られている。
だが、今回のカルデナス戦で見せた隙と綻びを考えると、32歳となった井上が今後、実力者たちとの戦いでどこまで勝ち抜けるかは不透明だ。
モンスターは、今回は危機を乗り越えた――
だが、殺し屋通りが待っている。
Manouk Akopyan は『ザ・リング・マガジン』の主任ライター。
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