カネロ・アルバレス対テレンス・クロフォードの対戦で、本来もっと語られるべきなのに意外と触れられていないポイントがある――アメリカ人ボクサーがメキシコ人ファイターと「知略・技術・ハート」をぶつけ合ってきた豊かな伝統だ。
この文化衝突の系譜は1930年代に遡る。メキシコのトップがアメリカのトップとぶつかる時、歴史が動くことは疑いようがない。
その歴史が土曜にまた動く。スーパーミドル級の決戦まで数日、俺はYouTubeで見つけられる限りのUSA対メキシコ名勝負を観て、しっかり気持ちを高ぶらせるつもりだ。YouTubeにない古典の読み物も漁るし、何らかの理由でネットにない現代の好ファイトは仲間と語り合って思い出す。
君にも同じことを勧める。助走として、年代順に“ボーダー”ライバル対決&名勝負を10本挙げる。あくまで俺のチョイスで、
『ザ・リング』の公式選定でもオールタイム・ランキングでもない。外れるに値する対戦がいくつも出るのは承知――こういうリストの宿命だ。もし君のお気に入りが入っていなかったら、なぜ入れるべきかを添えて [comeoutwriting@gmail.com](mailto:comeoutwriting@gmail.com) にメールしてほしい。
ヘンリー・アームストロング vs. ベイビー・アリスメンディ
アリスメンディを「メキシコ初の世界王者」と称える声もあるが、彼が手にしたフェザー級王座はカリフォルニア、ニューヨーク、メキシコでしか認定されていなかった。典型的なメキシカン・ブローラーのアリスメンディに対し、アームストロングはメキシカンスタイルをまとったアメリカ人。1934年から1939年にかけてメキシコシティとロサンゼルスで5度拳を交え、シリーズはアームストロングが3勝2敗でリード。第4戦と第5戦(世界ウェルター級タイトル戦)の一部はYouTubeで視聴可能だ。
フアン・スリータ UD15 サミー・アンゴット
大半の歴史家は、ロサンゼルスで圧倒的人気を誇ったグアダラハラ出身のスリータを「メキシコ初の真の世界王者」と認める。1944年3月8日、L.A.でアンゴットに15回判定勝ちし、NBAライト級王座を奪取。アンゴットにとっては過小評価されたキャリアのラスト世界戦となった。残念ながらこの試合はYouTubeに残っていない。
アイク・ウィリアムズ TKO2 フアン・スリータ
1945年4月14日、メキシコシティ。40年代最強ライト級と呼ばれるウィリアムズがスリータを豪快にストップ。スリータのキャリア153戦中ラスト2戦目という晩年の一戦だった。映像は残っていないが、ぜひスリータのキャリアを振り返ってほしい。彼は誰とでも戦い、最終的に130勝23敗1分(48KO)の戦績でグローブを置いた。ウィリアムズについてはBoxRecを覗けばわかる、まさにオールタイム・グレートだ。
アイク・ウィリアムズ vs. エンリケ・ボラーニョス
ボラーニョスはスリータと同等か、それ以上にロサンゼルスで人気を博した。だが彼がライト級王座に届かなかったのは、ひとえにウィリアムズの存在ゆえ。1946年から1949年にかけて両者はロサンゼルスのリグレー・フィールドで3度激突。ボラーニョスは常に地元の声援を背負ったが、結果はすべてウィリアムズが制した(8回TKO、15回スプリット判定、4回TKO)。いずれも高速の攻防が続く激闘だったが、最後はウィリアムズの意地の強さが勝った。15回戦リマッチの一部はYouTubeで観られる。
ルーベン・オリバレス vs. ボビー・チャコン
70年代メキシコを代表するスターと、同時代を彩ったメキシカン・アメリカンの人気スラッガーによる三部作。1973年から77年にかけてイングルウッドのフォーラムを満員にした。初戦では、75戦を経験していたオリバレス(71勝3敗1分)が無敗ながら青さの残るチャコン(19勝0敗)を深い海へ引きずり込み、9回で沈めた。1975年の再戦では、減量に苦しんだチャコンを2回TKOで粉砕し、WBCフェザー級王座を奪取。第3戦はチャコンが10回判定で雪辱を果たした。
ルペ・ピントール vs. アルベルト・ダビラ
テキサス生まれ、ロサンゼルス育ちの技巧派ダビラが、強打型のメキシカン prospect ピントールを翻弄。1976年、フォーラムでの初戦は10回判定でダビラの勝利。だが35戦を経てピントールはWBCバンタム級王者へと成長し、1980年12月19日ラスベガスのシーザーズ・パレスで迎えた再戦は“メキシカン・スタイルvsアメリカン・スタイル”を体現した15回戦に。鈍重ながら忍耐強い王者ピントールが僅差のマジョリティ判定を制したが、ダビラの美しいボクシングは敗れてなお光った。判定が妥当か、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
サルバドール・サンチェス vs. ダニー・ロペス
21歳のメキシコシティ出身サンチェスが見せた冷静さ、精度、リングIQは異次元だった。KOアーティストとして名を馳せ、WBCフェザー級王座を8度守ってきた“リトル・レッド”ロペスを相手に、1980年の2戦はほぼ一方的な展開に。サンチェスが13回TKO、そして14回TKOで連続完勝。ロペスの栄光の時代は、この若き天才の登場によって幕を下ろした。
トーマス・ハーンズ TKO2 ピピノ・クエバス
70年代を代表するウェルター級の強打者同士が激突したのは1980年8月2日、デトロイト。クエバス必殺の左フックと、ハーンズの恐怖の右ストレートの真っ向勝負。先に炸裂したのはアメリカ人の右――“ヒットマン”伝説の幕開けだった。
フリオ・セサール・チャベス vs. ロジャー・メイウェザー
1985年7月7日、46戦無敗のチャベスが初めてメイウェザーと対戦。CBSで全米中継されたこの試合は“クリアカンのライオン”のアメリカデビュー戦でもあった。当時“ブラック・マンバ”は波こそあったが本物の実力者。だがチャベスは2回TKOで一蹴し、WBCスーパーフェザー級王座2度目の防衛に成功。アメリカのファンにその真価を知らしめた。1989年の再戦はスーパーライト級で行われ、消耗戦の末に10回でメイウェザーがギブアップ。チャベスは当時パウンド・フォー・パウンド最強との呼び声も高かった。
ダニエル・サラゴサ vs. ポール・バンケ
1989年から91年にかけて行われたWBCスーパーバンタム級タイトルを懸けた三部作は、過去50年で最も過小評価されているトリロジーのひとつだ。サラゴサは職人気質のタフなメキシコシティ出身ファイターで、将来の殿堂入り選手。第1戦をスプリット判定(12回)で取り、決着戦もユナニマス判定(12回)で勝利。一方、バンケが第2戦で見せた9回TKO勝ちはまるで映画のワンシーンのような情熱的ファイトだった。3戦ともYouTubeで視聴可能。
フリオ・セサール・チャベス vs. メルドリック・テイラー
無敗同士、140ポンドの王者対決はボクシング史に残る死闘となった。だが84年五輪スターだったテイラーのファンにとっては悲劇。試合終了2秒前、壮絶な攻防の末にストップされ、物議を醸した。1990年の『ザ・リング』ファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれたこの一戦で、チャベスは戦績を69勝無敗(57KO)とし、生ける伝説に。テイラーは1991年にウェルター級王座を獲得するも、1994年の再戦ではチャベスに8回TKOで再び敗れた。
バディ・マクガート UD12 ヘナロ・レオン
“ペルネル・ウィテカー戦直前に危うく台無しにしかけた”――まさにそんな一戦。WBCウェルター級王者マクガートは、ベテランのメキシコ五輪代表レオンに最終ラウンドで追い詰められ、あと一歩でストップ寸前に。だが必死に生き残り、1993年1月12日のESPNメインで僅差の判定勝利を拾った。これがYouTubeにないのが信じられない。せめて第12ラウンドだけでも誰かアップしてくれ!
マイケル・カルバハル vs. ウンベルト・ゴンザレス
この三部作の初戦は、俺の“お気に入り撃ち合いベスト”のひとつ。108ポンド統一戦で、カルバハルは2度のダウンを喫しながらも驚異の逆転KO。7回に“チキータ”を沈め、『ザ・リング』1993年ファイト・オブ・ザ・イヤーを受賞した。続く1994年の再戦・三戦では、ゴンザレスが賢くボクシングを展開し、マジョリティ判定とスプリット判定で勝利を収めた。
ペルネル・ウィテカー SD12 フリオ・セサール・チャベス
“スウィート・ピー”の異名を持つ偉大な技巧派に最大の敬意を。パウンド・フォー・パウンドNo.1を巡る論争の中、ウィテカーは“道路を渡り”(HBOからShowtimeへ移籍)、敵地同然のリングへ(ドン・キングのプロモートによるサンアントニオ開催、WBC御用審判団付き)とび込んだ。結果はスプリットドロー。だが判定がどうであれ、世界中のファンが真実を見た。
マルコ・アントニオ・バレラ TKO12 ケネディ・マッキニー
1996年2月3日、HBO「Boxing After Dark」の幕開けを飾った即席クラシック。バレラはプレッシャーファイターとして絶頂期にあり、憎々しさと技巧を兼ね備えたスタイルを全開に。だが88年五輪金メダリストのマッキニーもハートと技術を駆使し、フォーラムにふさわしい壮絶バトルを演じた。
オスカー・デ・ラ・ホーヤ vs. フリオ・セサール・チャベス
98戦のキャリアを誇るチャベス(96勝1敗1分)はすでに全盛期を過ぎていたが、1996年ラスベガスの灼熱の夜にWBCスーパーライト級王座と“スーパースターの座”をデ・ラ・ホーヤに託した。ザ・ゴールデンボーイはその夜ほぼ無敵のパフォーマンスを披露。プライドの塊であるチャベスは2年後のウェルター級再戦で健闘を見せたが、全盛期デ・ラ・ホーヤ相手に8回が限界だった。
ジュニア・ジョーンズ vs. マルコ・アントニオ・バレラ
43戦無敗(31KO)、無敵の幻想を背負ったバレラは1996年11月22日、ニューヨークのベテラン、ジュニア・ジョーンズと激突。だがジョーンズのリーチ、技巧、そして代名詞の右が“毒”となり、メキシコ新星を粉砕。5回KO決着寸前にバレラ陣営がリングに乱入し、結果は反則負け。5カ月後の再戦も僅差判定でジョーンズが制したが、ここで垣間見えた“老獪なボクサー”への進化こそ、後のバレラの礎となった。
フロイド・メイウェザーJr. vs. ホセ・ルイス・カスティージョ
もしフロイドがプロで負けた試合があるとすれば、2002年のWBCライト級初戦だった。MGMグランドのプレス席からはメイウェザーが1点差で辛勝と見たが、HBO再放送ではハロルド・レーダーマンの非公式採点(115-111)に同意。再戦は互いに中和し合うような凡戦となり、“プリティボーイ”が僅差判定で勝利を収めた。
ディエゴ・コラレス vs. ホセ・ルイス・カスティージョ
2005年5月7日の激闘は、俺が目撃した中で“史上最高の試合”だ。リマッチはカスティージョの計量トラブルで水を差されたが、それでも続いた時間は存分に楽しめるファイトだった。
フアン・マヌエル・マルケス vs. フアン・ディアス
2009年2月28日の初戦、序盤数ラウンドは“ベイビー・ブル”ディアスの凄まじいペースに、マルケスがストップ負けに追い込まれるのではと思ったほど。しかしマルケスは偉大さを証明。冷静に分解し、崩し、劇的な9回TKOで逆転勝利。『ザ・リング』2009年ファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。2010年の再戦はマルケスが余裕を持って12回判定勝ち。
――この偉大な文化的ライバル関係に敬意を込めて、ここからは“名誉の20戦”を年代順に紹介する。まだ観たことがない試合があれば、ぜひチェックしてほしい。
グティ・エスパダスSr. vs. ウィリー・ジェンセン ― 1976年、10回戦はスプリットドロー。
ピピノ・クエバス UD15 ランディ・シールズ ― 1979年、15回判定でクエバスが勝利。
ペルネル・ウィテカー vs. ホセ・ルイス・ラミレス ― 1988~89年にかけて2度対戦。
ホルヘ・パエス vs. カルビン・グローブ ― 1988~89年に2度激突。
ホルヘ・パエス vs. トロイ・ドーシー ― 1990年に2度対戦。
ホルヘ・パエス MD10 トレーシー・スパン ― 1991年、僅差のマジョリティ判定勝利。
ペルネル・ウィテカー UD12 ホルヘ・パエス ― 1991年、ウィテカーがユナニマス判定勝ち。
ヘナロ・エルナンデス vs. ラウル・ペレス ― 1993年に2度対戦。
マーク・ジョンソン SD12 アルベルト・ヒメネス ― 1993年、スプリット判定でジョンソン勝利。
ケビン・ケリー UD12 グレゴリオ・バルガス ― 1993年、ケリーがユナニマス判定勝利。
アレハンドロ・ゴンサレス TKO10 ケビン・ケリー ― 1995年、10回TKOでゴンサレスが勝利。
オスカー・デ・ラ・ホーヤ UD12 ミゲール・アンヘル・ゴンサレス ― 1997年、12回判定でデ・ラ・ホーヤが完勝。
エリック・モラレス TKO4 ジュニア・ジョーンズ ― 1998年、4回TKOでモラレスが圧倒。
ジェームズ・ペイジ UD12 ホセ・ルイス・ロペス ― 1998年、ペイジが12回判定勝ち。
ホセ・ルイス・カスティージョ vs. スティービー・ジョンストン ― 2000年に2度対戦。
マーク・ジョンソン vs. ラファエル・マルケス ― 2001~02年にかけて2度対戦。
フロイド・メイウェザーJr. TKO9 ヘスス・チャベス ― 2001年、9回TKOでメイウェザー勝利。
マーク・ジョンソン MD12 フェルナンド・モンティエル ― 2003年、僅差のマジョリティ判定でジョンソンが勝利。
フアン・マヌエル・マルケス TKO8 ティム・オースティン ― 2003年、8回TKOでマルケスが快勝。
ザヒール・ラヒーム UD12 エリック・モラレス ― 2005年、ラヒームが12回判定でアップセット。
デビッド・ディアス MD12 エリック・モラレス ― 2007年、僅差のマジョリティ判定でディアスが勝利。
シェーン・モズリー TKO9 アントニオ・マルガリート ― 2009年、モズリーが9回TKOで圧倒。
カネロ・アルバレス UD12 オースティン・トラウト ― 2013年、アルバレスが12回判定勝利。
フロイド・メイウェザーJr. MD12 カネロ・アルバレス ― 2013年、僅差判定でメイウェザーが無敗のアルバレスを完封。
テレンス・クロフォード UD12 レイムンド・ベルトラン ― 2014年、クロフォードが12回ユナニマス判定勝利。
カネロ・アルバレス UD12 ダニエル・ジェイコブス ― 2019年、アルバレスが12回判定で勝利。
カネロ・アルバレス TKO11
カレブ・プラント ― 2021年、アルバレスが11回TKO勝利でスーパーミドル級4団体統一を成し遂げた。
ジャーボンテイ・デイビス UD12
イサック・クルス ― 2021年、ハードな攻防戦を制してデイビスが12回判定勝ちを収めた。
間違いなく、ここに挙げた以外にも“米国vsメキシコ”の名勝負はまだまだあるはずだ。ぜひ君のお気に入りをコメント欄で教えてほしい。
伝統あるスタイル同士が最高峰でぶつかれば、ケミストリーは今も健在。
――土曜日が待ちきれない。