元ジュニアミドル級王者である父は、バルガスJr.が10代半ばでボクシングを始めたときから指導を続け、厳しいボクシング界を歩む手助けをしてきた。バルガスJr.は2014年のラスベガス・ゴールデングローブに、わずか4戦のアマチュア経験しかないまま出場し、プロ転向の意思も持っていなかった。
だが、その大会でオープンクラス王者となったことをきっかけに、本気でプロとして生きることを考え始めた。そして11年後の今、彼は大舞台アレジアント・スタジアムで、注目のプロスペクト、
カラム・ウォルシュとの一戦に臨む。
アイルランドのウォルシュ(14勝0敗11KO)とラスベガスのバルガス(17勝0敗15KO)による
10回戦ジュニアミドル級マッチは、Netflix配信カードのセミファイナルとして行われ、その後に
スーパーミドル級4団体統一王者カネロ・アルバレスと、同じく4階級制覇王者テレンス・クロフォードのメインイベント12回戦が控える。バルガスにとってウォルシュ戦は、才能あふれるジュニアミドル級で自らの実力を証明するための最高のチャンスであるだけでなく、同世代で最も愛されたボクサーのひとりである父の巨大な影から抜け出すための大一番でもある。
「正直きついよ」バルガス・ジュニアは
ザ・リング に語った。
「自分の立場を理解できる人は多くないと思う。誰かの影の中で生きてるからね。俺は父と同じ名前を持ってる。だから何もかも比較されるんだ。『お前の父さんはすでにオリンピアンだった』『もうこのプロモーションと契約していた』『お前の兄弟はこうだ』『弟はあんなノックアウトを決めた』ってね。エミリアーノのMSGでの40秒KOを超えられるかどうかなんて分からない。あれは相当なインパクトだった。でも俺たちはそれぞれ自分の道をちゃんと理解してるし、俺は自分自身に満足してる。父になろうなんて思ってない。父の靴は大きすぎるからね」
弟の
エミリアーノ(15勝0敗13KO)は、3兄弟の中で最も将来を期待されている存在と見られている。21歳のジュニアウェルター級で、ボブ・アラム率いるトップランクのプロモートを受けている。
「俺たち兄弟がリスペクトを受けてるのは父のおかげだ」バルガ・ジュニアは続けた。
「でも、だからこそ自分を差別化したい。こういう試合はワクワクするし、自分を試したい。無敗のレコードを懸けるファイターはもっと必要だと思う。俺は17勝0敗、相手は14勝0敗。こういう組み合わせはなかなか見られない。向こうにはダナ・ホワイトがついていて、こっちには父が後押ししてくれている。
俺は“昔気質”のファイターになりたい。自分の戦績を懸けて、強敵を恐れないスタイルだ。そうやって基準を引き上げれば、自分も毎回もっと強くなれる。この影から抜け出すのは簡単じゃないけど、この試合がその踏み台になると信じてる」
バルガスSr.は、自らが1996年アトランタ五輪でアメリカ代表として戦った後に、あまりにも早く大舞台に挑んだ経験を踏まえ、息子たちのマッチメークを慎重に進めてきた。
“El Feroz(エル・フェロス)”ことバルガスは、21歳で世界王者となり、ロナルド “ウィンキー” ライトやアイク・クォーティを破り、24歳までにフェリックス・トリニダードとオスカー・デラホーヤに敗北を喫した。現役最後の試合はわずか29歳のときだった。
一方のバルガスJr.は現在28歳。プロ4年目にしてキャリア最難関とされる一戦を迎えようとしている。
「父はいつも言うんだ。『俺のキャリアで起きた失敗はお前たちには起こさせない』って」 とバルガスJr.は語る。
「ファンは俺たちにヴァージル・オルティスとか、そういうトップ選手たちと戦ってほしいと思ってる。でもプロセスってものがある。段階を踏むんだ。父は急がされすぎたんだよ。21歳で、必要なら日曜日にキングコングと2回でも戦うようなファイターだったからね。
父はリスクを恐れないタイプで、その姿勢がファンのリスペクトにつながった。でも俺としては、もう少し待ってもよかったんじゃないかと思うときもある。それでも父は“ピープルズ・チャンプ”なんだ。世界中どこに行っても、父に会いに来て挨拶してくれる人が絶えない。それって本当にありがたいことだし、俺たち家族にとっては大きな祝福だよ」
バルガスSr.は、フェルナンドJr.、エミリアーノ、そして無敗のジュニアライト級アマド(13勝0敗6KO)のキャリアの進め方に対する批判など気にもしていない。それよりも、カリフォルニア州オxnardで育った頃に自分が持てなかった「父親の存在」を、息子たちの人生とキャリアにおいて常に示し続けることを何より重視している。
「俺のことをどう言ってきた? 『フェルナンドはライオンの檻に早すぎる時期に放り込まれた』ってな。そうだろ?」とバルガスSr.は語る。
「でも俺はそれでも5人の世界王者を倒したんだ。で、今度は俺が息子たちを慎重に導いているから、『あいつらは弱い相手としか戦ってない』って言われる。
この前の相手、(ゴンサロ)コリアは本物のバトだった。子どもの頃からパンチがめちゃくちゃ強いんだ。『水増しされた戦績だ』って言う人もいるけど、もちろん俺たちは新参者として戦績を積み上げてる最中なんだ。だがこの戦績は嘘じゃない。近いうちに誰もがフェルナンド・バルガスJr.の名前を知ることになる」
『ザ・リング』シニアライター兼コラムニスト、Keith Idec 執筆。X(旧Twitter)@idecboxing でフォロー可能。