13か月の離脱期間中に競技からの引退まで考えていた元WBA王者の井上拓真は、復帰戦で強気のパフォーマンスを見せ、那須川天心を翻弄し、読み勝って2度目の世界王者となり、WBCバンタム級王座を獲得した。
116–112、116–112、117–111という採点で、勝利の差に異論を挟める者はいなかった。東京の新アリーナであるトヨタアリーナで行われた注目のメインイベントは、巧みでありながら当然の3者一致判定となった。
最終秒に放たれた大きなオーバーハンドの左が、井上の好調な初回の内容をほぼ一瞬で帳消しにした。27歳の那須川は、あの動きの滑らかさと自然さのまま放ってみせ、型破りでエキサイティングな武器の中に新たな引き出しを加え続けている。
井上(21勝2敗, 5KO)は第2ラウンド序盤にキャンバスに倒れたが、スリップと判定された。対角に立つ切れ味鋭いコンテンダーは、時間が進むごとに自信を増し、フェイントを入れ、体を外し、後ろ足に乗りながらジャブを弾き出す場面も見せた。
6分を終えてコーナーへ戻る際、那須川(7勝1敗, 2KO)は誇示するように焦らず歩き、パンチの出し方も計算しながら、シャッフルしたりショーボート気味の動きを見せていた。まるで元王者に対し、今夜もまた厳しい戦いになると示すかのようだった。
那須川が前に出るたびに、井上はブロックし、かわして危険を回避したものの、ボディへの右は避けきれなかった。井上は能動的に応じ、ペースを上げてリング中央を支配し、頭部へのフックを着実に当てて若い相手に警戒心を持たせた。
井上は第4ラウンド序盤に大きな右を続けざまに放ち、前へ出続けてリングを小さく使わせ、至近距離での打ち合いを半ば誘うような展開に持ち込んだ。そこでは井上が巧みにディフェンスし、那須川のフィジカル面での優位性も大きく薄れる状況だった。
WBCのオープンスコアリング制度により、アリーナのアナウンサーが4ラウンド終了時点で3人のジャッジ全員が38–38のイーブンと採点していることを告げた。緊張感の続くラウンド中盤、井上はタイミングを合わせ、ガードの間を抜く右を2発着実に当てた。
井上はジャブを的確に突き、ディフェンスを鋭く保ちつつ、第6ラウンド終盤には右アッパーを連続で織り交ぜた。那須川は明らかに手数が落ち、足取りのバネも失われていた。
第7ラウンド序盤、2人は至近距離でアッパーを交錯させ、井上は右を軸に外すことなく当て続けた。29歳の井上は微妙な足位置で距離の出入りを自在にコントロールし、一方で那須川は苛立ちからか露骨にフィジカルに寄せてくる場面が増えていた。
第8ラウンドも同じような展開が続き、第9ラウンド開始時には井上を後押しする観客の大きな歓声が起きた。24分を終えた時点で、採点は井上が77–75、78–74でリードし、76–76のイーブンを上回っていた。年長の井上はラウンド終盤にわずかな被弾があったにもかかわらず、依然としてペースを押し続けていた。
第10ラウンド、第11ラウンドも大きな違いはなく、那須川は最終ラウンドで時計を気にせずにはいられず、フラリーを振り回して前に出たが、流れを変えるような場面は作れないまま時間だけが過ぎていった。やがて今度は井上が後ろ足に乗って誇示するような動きを見せ、那須川の強振2発をかわし、自身の連打をクリーンに当てていった。
アリーム、タイトル挑戦者決定戦で中野テストをクリア
採点が難しく、荒れ気味で、じわじわと火がつく展開だったものの、ライース・アリームは10ラウンドにダウンを奪い、無敗のコンテンダー中野幹人に勝利してキャリア最高の内容を挙げ、IBFフェザー級のタイトル挑戦者決定戦を制した。
ジャッジのジェレミー・ヘイズは115–112で最も接戦とし、ジュリオ・ピラスは116–111とやや差をつけ、カール・ザッピア(118–109)は中野にわずか2ラウンドしか与えなかった。ホームの人気選手である中野は、エリート相手に謙遜を強いられる結果となった。
アリーム(23勝1敗, 12KO)は、序盤で中野(14勝1敗, 13KO)がリングを回りながら探る中、明らかに神経質な動きを見せつつ、距離を保った交換にこだわっているようだった。
地元の期待を背負う中野は、特に第4ラウンドで左を軸により良い攻撃を当て、第5ラウンドの終盤には互角の接戦の中で至近距離の打ち合いに持ち込んだ。
アリームは第6ラウンドになると距離感をつかみ始め、よりオープンに前へ出て、いくつかのコンビネーションを放ちながら成功を収めた。
中野は距離を詰めて逃げ道を塞ぐのではなく、追いかけるだけになってしまい、そのことが響いた。両者とも、競り合いとなった後半ではカウンターを必要とする展開を受け入れながらの応酬となった。
第10ラウンドに入り、アリームの攻勢が報われたことで、それまで揺れ動いていた展開は一気に変わった。アリームは3発を外したが、4発目の短く鋭いオーバーハンドの右を的確に当てた。足が止まっていた中野はこの一撃が全く見えておらず、その代償を払うことになった。
トヨタアリーナの観客は一瞬静まり返ったが、その沈黙は長くは続かなかった。アリーム自身も揺さぶられるような場面を耐え、第11ラウンドを力強く締めくくった。ばらついた右が効果的に働き、中野が即座に反撃へ転じようとする動きを封じ込めた。
30歳のサウスポーである中野は、最終ラウンドで予想通り全力を出し切り、左を当ててバランスを崩したアリームを倒しかけた。しかしアリームは体勢を立て直し、十分なカウンターを返して、この“ビジネストリップ”を勝利で切り抜けた。
「この試合のために本当に多くのトレーニングを積んできたし、仕事をやり遂げられて嬉しい。とてもタフな試合だった。毎ラウンド集中し続けなければならなかったし、相手は強打者だったが、俺は集中を切らさなかった。ここに立てて光栄だし、恵まれていると思う。これは4度目か5度目の世界タイトル挑戦者決定戦だったが、ついにビッグファイトへの切符をつかんだ」と彼は試合後のインタビューで語った。
坪井、クアドラスに鋭さで圧倒
坪井智也は、元王者カルロス・クアドラスを相手に第8ラウンドでストップ勝ちを収める圧倒的な内容を見せ、世界タイトルを狙う意思をはっきりと示した。
2025年前半にブンルアン・パヨム戦とヴァン・タオ・チャン戦で対照的な勝利を収めた後、29歳の坪井は自らの王者資質を試すより厳しいテストを求め、その答えをWBCジュニアバンタム級1位のクアドラス(44勝6敗1分, 28KO)の中に見出した。
クアドラスは、2014〜16年にかけて6度の世界タイトル防衛を果たし、その後も戦歴を押し上げる勝利を重ねてきた選手で、もし坪井が自分を倒すようなことがあれば世界タイトルに向けて準備万端だと「ザ・リング・マガジン」に語った。
坪井はただ倒しただけではなく、開始1分目から試合の流れを完全に掌握し、必然の結末へと持ち込んだ。
全盛期より明らかにスピードが落ちていたものの、メキシコのベテランは、可能な場面ではしっかりと打ち込み、初回から果敢にスイングしていた。
坪井は、打てる場面ではためらわずに強打を返し、第3ラウンドには年上のクアドラスがローブローで注意を受ける場面もあった。同じラウンドで、両者が至近距離で大きなパンチを交換する中、坪井はオーバーハンドの右をクリーンヒットさせ、成功度では若い坪井が上回った。
手数が多く、パンチも速く鋭い坪井は、37歳のクアドラスをぐらつかせ、4ラウンドを終えてもフレッシュな動きを見せていた。一方でクアドラスの顔は真っ赤に腫れ上がり、坪井は上下にまんべんなく打ち分けながら手数を惜しまなかった。
坪井が完全にギアに入ると、4発・5発のコンビネーションが猛烈なペースで放たれ、クアドラスは防戦一方となった。クアドラスがスリップしてキャンバスに倒れた場面では観客の大歓声が上がったものの、それ以上の流れは生まれず、ダメージは積み重なるばかりだった。
第8ラウンド2分59秒、レフェリーの池原信人は“もう十分だ”と判断した。坪井が右で締める3発のコンビネーションを打ち込み、元王者を大きくぐらつかせて後退させたところで、池原は試合を止めた。
増田対カルデロン戦、まさかの早期決着
メインカードのオープナーでは、WBAバンタム級ランキング4位の増田陸(9勝1敗, 8KO)が、2023年8月に将来の王者となる堤聖也に敗れて以来、初めてジャッジの採点を聞く試合となった。
第5ラウンド序盤、頭がぶつかったことでホセ・ミゲル・カルデロンの右目上にカットが生じ、リングサイドドクターが即時ストップを進言したため、いい流れで進んでいた118ポンド戦は肩透かしのような結末となった。
増田に有利な49–46、48–47という採点が、48–48のスコアを上回り、28歳の増田はテクニカル・マジョリティドローを得た。カルデロン(14勝3敗, 6KO)が増田のベストショットを受けながらも強く打ち返していたことを考えれば、多くのファンが新年に再戦を望む内容だった。