ジェームズ“ジャザ”・ディケンズは、自身の使命はまだ終わっていないと強く主張している。
2週間前、ディケンズ(36勝5敗、15KO)はトルコ・イスタンブールに乗り込み、
ロシアのアルベルト・バティルガジエフを圧倒した。片側だけの展開となった4ラウンドでロシア人をノックアウトし、WBA暫定スーパーフェザー級王座を獲得した。
ディケンズはリバプールに戻り、家族と共にお気に入りのウェールズのリゾート地で静かな数日間を過ごしながら勝利を祝った。その後は日常生活へと自然に戻っていった。生粋のワーカホリックである彼の頭は、すでに次の目標に向けて動き始めている。
「最初の数日は天にも昇る気分だった。何があっても揺るがなかったよ。でも、現実に戻る瞬間がくるだろ?それで『次は何だ?』って考えるんだ」と、学校への送り迎えを終えたディケンズは『ザ・リング』に語った。
「雲の上から降りてきた今の自分は、もっと貪欲になっている。まだまだやりたいことがあるんだ」
「バケツに戻るんだよ。カニのバケツさ。誰ひとり抜け出せない」
ディケンズは、バケツに戻ることを何ら厭わない。それどころか、むしろ歓迎している。ボクシングに人生を捧げてきた彼は、34歳にして、14年に及ぶプロキャリアの中でもほぼ最高のパフォーマンスを見せている。バティルガジエフを衝撃的に下したことで、長年積み重ねてきた努力をついに報われる形で生かせるポジションに立ったのだ。
ディケンズは、自身の暫定王座が正式な世界王座へ昇格することを確信している。現WBAスーパーフェザー級正規王者ラモン・ローチがライト級転向とジャーボンテイ・デービスとの高額な再戦を正式に決定すれば、その流れは現実のものとなる。今週初め、『ザ・リング』は、8月16日とされていた試合日程がキャンセルされたものの、
代替日程が引き続き検討されていると報じている。WBA暫定王座の獲得は、ディケンズに時間と十分な交渉力を与えたが、彼の野心や「満足」を求める姿勢には一切影響していない。
「実はな……密かにだけど、俺はずっと世界タイトルよりも、こっちのほうが欲しかったんだ」と彼は語る。「“世界王者”と“ザ・チャンピオン”には違いがある。俺がずっとなりたかったのは、“ザ・チャンピオン”の方なんだ」
「今の俺は、すごくいい位置にいる。たとえあいつら(チャンピオンたち)とやらなくても、ここイングランドにもデカい試合はいくらでもあるだろ?」
「それに、バティルガジエフとの再戦条項もあるんだよ」
ディケンズは、バティルガジエフとの試合を最初から最後まで完全に掌握していた。ゴングが鳴った瞬間から、より力強く、完成されたプロボクサーとしての姿を見せつけ、冷酷なまでのフィニッシュで試合を締めくくった。バティルガジエフは2020年のオリンピックで金メダルを獲得するほどの実力者で、勇敢かつ粘り強いファイターではあるが、仮に再戦条項を行使する決断を下したとしても、その道のりは険しいものとなるだろう。
ディケンズは、契約上再戦が義務付けられた場合には応じる意思を示しているが、バティルガジエフがリベンジを望むかどうかについては確信が持てていない。
「個人的に彼のことを知らないから、正直わからないね」と彼は語った。
「彼は契約上の条項を持ってた。というのも、彼は向こうのプロモーターの選手だったからね。でも、あんな展開になるとは思ってなかったんじゃないかな。もし一発ラッキーショットで倒しただけなら、『よし、もう一回やろう』ってなるかもしれないけど、あれはラッキーなんかじゃない。誰が見ても支配されてたのは明らかだったよ」
ボクシングは、ほんのわずかな差や微調整が勝敗を分ける競技だ。しかし時に、ファイターのボディランゲージに現れる小さく繊細な変化は、はっきりと目に見えるものになる。バティルガジエフは、無敗のファイターらしい自信と弾むような足取りでリングに上がったが、その自信はすぐに、そして明確に体全体から失われていった。
「ある瞬間があったんだ」とディケンズは振り返る。「彼はプレッシャーをかけるタイプのファイターだけど、俺が動くのをやめて、ただ彼を見つめて笑ったんだ――まるで『お前のやりたいようにはさせない』って言うようにね。そしたら、彼の体全体、いや心までが沈んでいったのがわかったよ。彼の顔を見てすぐにわかった。たぶん彼は何年も相手にプレッシャーをかけて、焼き尽くすような戦いをしてきたんだろう。でも俺を見たときに、こう思ったはずだ――『この相手は引かない』ってね。」
「それから俺が前に出始めたんだ。彼にとっては、自分のスタイルを押し付けられずに、こっちの土俵で戦わされることになったのが、少し堪えたんじゃないかな」
「でもさ、結局ボクシングって“スタイルが試合を決める”んだろ?俺が世界で一番強いなんて言うつもりはない。ただ、たまに相性がハマることがあるってだけで、あの試合はサウスポー対サウスポーってのもあって、俺にとって理想的な相手だったんだよ」
この勝利は、ジャザ・ディケンズと、ドバイのゴールデン・リング・ジムで彼を指導するアルバート・アリャラペティアンにとって、今年2つ目の輝かしい成果となった。
アリャラペティアンは以前、ゼルファ・バレットの対戦相手のセコンドについていた経験があり、そのときの知見が、ディケンズがマンチェスター出身のバレットに対して有効に立ち回るための戦術に活かされた。ディケンズはそのプランを信じ、完璧に実行し、キャリアを再び輝かせる判定勝ちを手にした。
昨年、アリャラペティアンが指導するファイター、ジョノ・キャロルはバティルガジエフに9ラウンドでストップされている。その経験もまた、今回の勝利への道筋を描くうえで大きな助けとなった。
アリャラペティアンは、ディケンズが若手有望株と称されていた頃のような、巧みなフットワークと角度の使い方を再び引き出してみせた。しかし、バティルガジエフを追い詰めたときのように、トップレベルの舞台であそこまでギアを上げて攻めきった姿は、これまでになかった。
「彼のことをどれだけ褒めても足りないよ」とディケンズは語った。
「彼のことを世界中に知ってほしいと思う反面、誰にも知られたくない気持ちもあるんだ。俺だけが彼の時間を独り占めしたいからね。そんくらい、彼は素晴らしいコーチなんだよ。でも、アルバートはきっと、それに見合う報いを受けることになると思う。彼は人生すべてをボクシングに捧げてきたんだから。時には、コーチとファイターがキャリアの終盤に出会って、ちょうどいいタイミングで正しいチャンスを掴むことがある。彼にとっては、これまでなかなか噛み合うことがなかったけど、今回こうして一緒に成し遂げられたのは本当に素晴らしかった」
「俺が彼に『俺のためにやってくれてること、本当に感謝してる。すごく助けられてるよ』って言ったんだ。そしたら彼は『ファイターに何かを言うのは簡単だけど、それを実行できるファイターってのはまた別の話なんだ』って返してきた。だから、これはお互い様なんだよ」
「もし彼がビッグなヘビー級の選手を担当して、でっかく稼げたら、それもまた素晴らしいことだよね」
ディケンズは長い間、チャンスを求めて荒野をさまよい続けてきたが、ようやく今、何か大きなものが自分の元へやって来るという確信を持って、静かに成り行きを見守ることができるようになった。
すでにいくつかの話し合いも行われているが、現時点では公表されるものはない。それでも、バティルガジエフに対する勝利とWBAタイトルの獲得によって、ディケンズは確実にリングの中心に立つ存在となっている。
「ああ、いくつかはあるけど、まだ何も言えることはないよ。だって実現しなきゃ意味ないだろ?」とディケンズは語った。
「今のところ具体的に動いてることはないけど、どれもすごく前向きな話ばかりだ。“誰があいつとやりたいんだ?”って言われてた俺が、今じゃ“ぜひやらせてくれ”って言われてるんだからな。嬉しいよ。ほんとに、すごく嬉しい」