ロンドン──
イシュマエル・デービスがトッテナム・ホットスパー・スタジアムで行われた12回戦において、熱狂的な
スパーズファンとして知られるサム・ギリーを僅差で下し、12回戦で続いていた3連敗の流れを止めた。
激しく、目の離せない攻防の末、ジャッジのジョン・レイサムは115-114でデービスを支持し、ハワード・フォスターとマーク・ベイツも115-113と採点。これにより、デービスは困難な一年を乗り越え、英国スーパーウェルター級王座と英連邦同級王座を同時に獲得した。
デービスは、ジョシュ・ケリー戦とセルヒ・ボハチュク戦に急遽参戦し、いずれも敗れたことで「誰とでも戦う男」という評判を高めていた。
しかし、その2敗に続き、9月には
カオイムヒン・アギャルコにスプリット判定で敗北。このギリー戦は、ヨークシャー出身のデービスにとって大きな重圧を背負う一戦となった。先月、エリオット・エボイグベに勝利し再起したことで、空位となっていた英国スーパーウェルター級王座と、ギリーの持つ英連邦王座に挑む権利を手にした。試合は
クリス・ユーバンク対コナー・ベンの再戦のアンダーカードとして組まれた。
初回、デービスはギリーの長いジャブを突破することに苦戦したが、2回に入るとスイッチヒッターとしての技巧を発揮し、英連邦王者ギリーのボディと顔面に的確な打撃を集め、徐々にペースを掴み始めた。
だが、前へ前へと距離を詰めるデービスに対し、ギリーは右のボロパンチを活用し、2回終盤には頭部とボディへ深く打ち込む場面を作った。
3回、ギリーはジャブの主導権を握ることを明確な方針とし、これを強く打ち出す。デービスはよく対応し、オーソドックスに構えた際にはカウンターの右で鋭い反撃も見せた。
4回に入ると試合の熱量はいっそう高まり、このラウンドはデービスがわずかに優勢に見えた。だが、試合が劇的に動いたのは5回であった。3歳の頃からトッテナムの試合を観てきたギリーは疲れを見せながらも手数を落とさず、一方デービスは過去14か月で5戦目というハードスケジュールにもかかわらず、ラウンドを追うごとに勢いを増していった。
6回の時点でギリーの右目は大きく腫れ、試合の折り返しを迎える頃にはデービスが試合を支配し始めていた。リングサイドではプロモーターのエディ・ハーンが声援を送り続けたが、7回終盤にギリーが右をヒットさせると、ハーンの方を振り向き挑発気味に反応する場面もあった。
しかし、デービスの内容はハーンを満足させるものだった。"ブラックパンサー"を自称するデービスは9回に攻勢を強め、ギリーは危機的状況へと追い込まれ始めた。デービスは頭部とボディを巧みに使い分け、圧力を強め続けた。
それでも、普段サッカー観戦で訪れるスタジアムで戦うギリーは屈せず、10回には互角の展開を取り戻し、コーナーの喝采を浴びた。
11回、ギリーは反撃に出て、鋭い右アッパーで突破口を作ると、そこから連打を重ねていった。7人の息子を持つデービスは腕を上げ「大丈夫だ」と言わんばかりに見せたが、明らかに追い込まれている様子がうかがえた。
ギリーの勢いは最終12回に向けて絶好の流れとなり、このラウンドはギリーが優勢に見えた。そして終了間際、ギリーが倒れた。しかし、デービスが右アッパーを命中させた直後であったにもかかわらず、マーカス・マクドネル審判はスリップと判断した。
判定を巡っては議論が割れたものの、試合結果には影響せず、デービスは3者ともに支持され勝利した。
“これが『始まりの終わり』だ”と30歳のデービスが試合前に『ザ・リング・マガジン』へ語っていた一週間を経て、彼は英国・英連邦王者として新たなキャリアの段階へ進むことになったのである。