ボクサーにとって、初めて格上の相手と戦って敗れることが、キャリアにおいて最良の出来事となる場合がある。
サウル「カネロ」アルバレスは、2013年9月14日に
フロイド・メイウェザーに判定で敗れて以降、16連勝という驚異的な戦績を築き上げ、スーパーウェルター級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級で世界タイトルを獲得。この時代を代表する、あるいは最も優れたボクサーの1人としての地位を確固たるものとした。その快進撃は、メイウェザーとの12ラウンドで得た豊富な経験と教訓があってこそ可能だったと言えるだろう。
そして今、
エドガー・ベルランガは、カネロ戦で得た教訓が自身をスーパーミドル級トップファイターの1人として証明する手助けになることを願っている。
「今は自信がまるで別次元にある」とベルランガは、
2024年3月15日のジョナサン・ゴンザレス=オルティス戦の勝利の前に『ザ・リング・マガジン』に語った。「中学生から一気に大学生になったような感覚だ。自分にとっては大きな転機だった。」
ベルランガにとって、カネロ(63勝2敗2分39KO)とのスーパーミドル級統一王座戦の序盤は、まさにキャリアにおける大きな飛躍を意味していた。彼自身が「中学生からいきなり大学に進学したようなもの」と表現したように、格上の相手に挑む試合そのものだった。カネロは序盤から完全に主導権を握り、第3ラウンドには鮮やかな左フックでベルランガをダウンさせた。
その後もカネロが優勢を保ったが、ラウンドが進むにつれてベルランガにも成長の兆しが見え始めた。ベルランガは試合が荒れた場面でも冷静さを失わず、主導権を保つようになっていった。
とはいえ、そうした健闘も試合の流れを大きく変えるには至らなかった。トータルパンチ数ではカネロが201発、ベルランガが119発。パワーパンチでもカネロが133発、ベルランガが65発と圧倒した。判定は118-109が2人、117-110が1人と、カネロの完勝だった。
それでも、試合内容や判定が大差であったにもかかわらず、28歳のブルックリン出身ベルランガにとっては、後半のパフォーマンスから多くのポジティブな要素を得ることができた。ベルランガが119発中82発を第6ラウンド以降にヒットさせており、試合終盤7ラウンドでは平均して1ラウンドあたりおよそ12発を的確に当てていた。
ベルランガの成長を見逃さなかった1人が、トレーナーのスティーブン「ブレッドマン」エドワーズである。エドワーズは、ケイレブ・プラント、ジュリアン・ウィリアムス、カイロン・デイビスといったファイターを抱える実力派トレーナーであり、ベルランガがカネロ戦の後半で見せた改善と対応力に強い印象を受けたという。
「彼は特に後半でよく自分をコントロールしていた。試合が進むにつれて明らかに成長しているのが見えたし、完全に崩れるような場面もなかった。それはたとえ試合に敗れたとしても、確実にポジティブに捉えるべき点だと思う。あの試合は彼にとって非常に価値のある学習経験だった。彼が試合中に成長していく様子がはっきりと分かった。最初は少し力不足のように見えたが、試合の途中から『よし、俺はこのレベルでも戦える』と意識が変わっていくのが感じられた」とブレッドマンは
『ザ・リング・マガジン』に語った。
「その試合で彼の自信は確実に育った。本人がそれを認めるかどうかは別として、自分がそのレベルで戦えると思うのと、実際にそのレベルでリングに立つのとでは全く違う。彼が試合後にあれほど嬉しそうだったのは、きっとそういうことだと思う。『自分はこのレベルで戦えるんだ、たとえ勝てなかったとしても、ある程度の成果を上げられる』と実感したからこその表情だった。」
カネロ戦以来、ベルランガは1試合のみ行っており、2024年3月15日に格下のゴンザレス=オルティスを初回KOで下し、キャリア通算17度目の初回KOを記録した。
7月12日に予定されているハムザ・シェラーズ(21勝0敗1分17KO)との試合では、カネロ戦で得た教訓をどれだけ活かせるかが、ベルランガの勝敗を大きく左右する重要な要素となる。
シェラーズは身長191cmの長身で、ベルランガがこれまでに対戦した中で間違いなく2番目に手強い相手である。彼はミドル級時代に15連続KO勝利を記録しており、2024年2月22日にカルロス・アダメスとの試合でスプリット・ドローに終わったのち、スーパーミドル級へ階級を上げ、今回ベルランガとの初戦に臨む。
殿堂入り実況者ジム・ランプレーもまた、ベルランガがカネロ戦から得た教訓がシェラーズ戦を左右すると見ている。
「まるで高校の最終学年を飛ばして、そのまま教授とリングで対戦するようなものだった」とランプレーは『ザ・リング・マガジン』に語った。「経験、洗練度、細やかなニュアンスに至るまで、両者の間にはあまりにも大きな差があった。カネロのように、対峙するだけでこれほど多くを学べるファイターは、世界でも極めて稀だ。だからこそ、ベルランガがその差にしっかりと注意を払い、彼自身とカネロの間にあるあらゆる違い、背景の差、そしてキャリアの厚みに気づき、それを理解した上で、今回のシェラーズ戦では、より高度な技術と洗練された戦術を持ち込んでくれることを願っている。」
「シェラーズは英国出身の長身カウンターパンチャーであり、おそらくこれまでにカネロ・アルバレスのようなタイプの相手とは、かすりもしないほどのレベルでさえ対戦したことがないだろう。だからこそ、この試合において最も重要な指標となるのは、『ベルランガがアルバレスに予想通り敗れた』という事実に対して、彼がそこから何を学んだのかという点である。」