土曜の空に一片の雲もない中、葉巻を手にしたデレク・チゾラが、IBFが自身を世界ヘビー級王座の次期指名挑戦者に指名したという決定に応じた。
キャリア後半に“インディアン・サマー”を迎えるボクサーは他にもいるが、フィンチリー出身の41歳、チゾラが今まさに味わっているそれに匹敵する者はほとんどいない。
チゾラに引退を勧める声が上がり始めたのは、2017年にモンテカルロで当時16戦無敗だったアギット・カバエルに僅差の判定で敗れた頃にさかのぼる。それが大げさな表現ではないのは確かだ。 しかし、あの敗北は、ドイツ人のカバエルがその後に成し遂げた実績を考えれば、今となっては評価の上がった一戦でもある。
批判の声に耳を貸すタイプではないチゾラは、その後も14試合をこなし、自身2度目の世界タイトル戦も経験。これで通算戦績は49戦36勝13敗(23KO)となった。間違いなく、彼は同世代を代表するカルト的人気を誇るボクサーの一人であり、現在の英国で最も支持されている現役ファイターの一人でもある。
目指すゴールは、すでに明らかになっている通り“50戦”で、年内にはラストファイトを迎える予定だ。0勝2敗のフランシス・ガヌーとのアフリカ決戦案や、過去に2度敗れているディリアン・ホワイトとの三度目の対戦案も浮上していた。
しかし今週、IBFが動いたことで、チゾラの波乱万丈なキャリアを締めくくる最後の試合は、これまで浮上していたどの案よりも華やかな舞台となることが確実となった。彼はこれで、世界ヘビー級王座に3度目の挑戦を果たす可能性が極めて高くなった。
彼の直近の試合は、マンチェスターで行われたオット・ワリンとの
12ラウンドに及ぶ圧巻の勝利であり、IBF王座挑戦者決定戦でもあった。しかし、それがキャリア最後の一戦になるとは、予想していた者はほとんどいなかった。しかし、6月21日にダニエル・デュボアの指名戦が予定されており、4月22日にはその試合の指令が出される見込みであることから、IBFは最終挑戦者決定戦を行う時間的余裕はないと正式に発表した。2017年のモンテカルロでの敗北から8年が経ち、チゾラはついに大きなチャンスをつかんだ。
しかし、問題となっているのは、デュボアがすでにオレクサンドル・ウシクとの4団体統一戦に向けた交渉を進めていることだ。ウシクはWBC、WBA、WBOの各王座に加え、リング・マガジン王者でもある。 両者による統一戦が実現すれば、それはチゾラの指名挑戦試合や、WBOが指令を出しているウシク対ジョセフ・パーカー戦よりも優先されることになる。
そしてチゾラは、すでにデュボアを下しているウシクに対し、ヘビー級での快進撃の中で唯一まだ倒していない相手と対戦するよう呼びかけている。
「いいか、聞いてくれ」とチゾラは語る。「今のタイミングでダニエルとオレクサンドルが戦う意味なんてないだろ。オレクサンドルはもうあいつを倒してるんだ。」
「自分が最強だと証明したいなら、ジョセフ・パーカーを相手に王座を防衛すべきだ。最強を名乗るには、誰とでも戦わなきゃならない。ウシクはタイソン・フューリーと2回、AJとも2回やってる。俺とは1回、ダニエル・デュボアとも1回戦ってる。だから今度は、ジョセフ・パーカーにチャンスを与えるべきだと思う。」
そのシナリオが実現すれば、チゾラにとっては理想的な展開となる。そうなれば、引退試合としてデュボアとのIBF王座戦への道が開けるからだ。ワリンとの一戦は英国ラストファイトとして宣伝されていたが、現在ではその可能性は低そうだ。チゾラはキャリア50戦目をロンドンのスタジアムで開催する計画を練っている。
「みんなビジネスのことも考えなきゃならない」とチゾラは言い加える。「俺はダニエルと戦いたいし、その試合ならウェンブリーでもトッテナムでも間違いなく満員にできるって確信してる。」
「ワリン戦に来てくれたマンチェスターの観客には本当に感謝してる。そしてフランク・ウォーレンとクイーンズベリーにも感謝したい。あれは本当に信じられないくらい素晴らしいイベントだった。あらゆる面で完璧なショーだったよ。でも俺は分かってた…あれが英国でのラストファイトにはならないって。」
「今はこのラストファイトに向けて、音楽も含めてすべてを計画しているところだ。本当に素晴らしいショーになるよ。今、考えているコンセプトが2つあって、ひとつはウェンブリー用、もうひとつはトッテナム用。どちらになっても、間違いなく最高のイベントになるさ。」
「今年の夏のバンクホリデーの日曜にやりたいんだ。それが実現したら、マジで最高だと思うよ。」
ただし、もしウシクとデュボアが次戦で4団体統一戦に合意すれば、チゾラはその機会を待たされる可能性もある。今夏、ノンタイトル戦で50戦目を迎え、その後51戦目で全王座をかけた勝者に挑むという選択肢もあるのではとチゾラに問いかけられた。
「いや、それはないな」とチゾラは笑いながら語る。「俺は50戦で終わり。間違いなく。やらなきゃならないんだ。もうこれを続けることはできない。残ってるのは最後のトレーニングキャンプだけだって、自分でも感じてる。だからラストファイトは世界タイトル戦。一か八か、すべてを懸けるんだ、兄弟。」
つまり、もし世界ヘビー級王者として引退することになっても、高額ファイトとなる防衛戦を一度も行わずに、満足してボクシング界を去るつもりなのだろうか。
「それで引退しても全然いいと思ってる」と彼は付け加える。「すべてをその場に置いて、静かに表舞台を去る。それが最高の終わり方だろうね。」
つまり、チゾラにとって理想の展開は、ウシク対パーカーが実現し、自分が夏にデュボアと対戦することだ。ただし、グリニッジ出身の27歳デュボアは、キャリア最高とも言える圧倒的な状態にあり、チゾラにとっては極めて手強い相手となる。2023年8月にオレクサンドル・ウシクに敗れて以降、ダニエル・デュボアはジャレル・ミラー、フィリプ・フルゴビッチ、そしてアンソニー・ジョシュアを次々とストップしている。
「今のダニエルはまさにピークにいる」とチゾラは語る。「完全にノッてるよ。」
最初の2ラウンドを好きにやらせたら、奴は一気に叩き潰してくる。ダニエルは、最初から勢いよく飛び出してくるタイプで、ちゃんと抑え込まなければ危険な相手なんだ。だからダニエルと戦うときは、最初の2ラウンドが本当に重要なんだ。そこでしっかり抑え込んで、奴の勢いを止めて、自分の殻に戻らせなきゃならない。
「そのあとは…どうなるか見てみようじゃないか。」
チゾラのキャリアも同じことが言える。この“インディアン・サマー”には、もうひと晩だけ穏やかな夜が残されている。