マニー・パッキャオは80歳になっても、リングに上がれば相手に特別な感情を抱かせる。それが“レジェンド”と向き合うということ。現実の年齢やボクシングキャリアの年数なんて関係ない。
今週土曜、ラスベガスでその“相手”を務めるのは、WBCウェルター級王者
マリオ・バリオス。彼は30歳。対するパッキャオは46歳。先月、
国際ボクシング殿堂入りを果たしたばかりだが、最後の試合からはすでに約4年が経っている。
バリオスが今まで感じたことのない何かを感じているのは間違いないだろう。だが、それがどんな感情かは、実際にその場に立った者にしか分からない。すべては、リングの上で明らかになる。
クリス・アルジェリは知っている――パッキャオと戦うとはどういうことかを。元WBO世界スーパーライト級王者であり、現在は放送解説者としても評価の高い彼は、その体験を言葉で鮮やかに描写する。
「ただの試合じゃなかった、“体験”だったよ」とアルジェリは語る。2014年、12ラウンドの判定で“パックマン”に初黒星を喫し、当時20戦無敗の記録が途絶えたあの試合を振り返って。
「7都市を回るワールドツアー、世界中を飛び回って、何百人ものファンに囲まれた。おでこにサインしてくれって言われるんだぜ?とにかくクレイジーな経験だった。ファイトウィークも異常な熱気、メディア対応もいつも以上にハードで、全ての瞬間がハイテンション。あの規模で、あのパッキャオと戦うってのは、完全に飲み込まれる感覚さ。」
「才能がどれだけ残っているかは分からないけど、彼はとにかく天才。身体能力も、ボクシング技術も、全てがハイレベル。僕らの時代で最も偉大なボクサーのひとり。そのすべてが、“マニー・パッキャオと戦う”という経験に詰まっている。」
とはいえ、今回の試合では16歳差があり、バリオスは4連勝中の現役世界王者。条件だけ見れば、復帰戦のパッキャオを圧倒しても不思議じゃない。だが、ジムで見せるあのスピード、あの懐かしい“黄金の手数”を見ていると、我々はつい「もう一度、時計を巻き戻すんじゃないか」と夢を見てしまう。
「ロマンもあるし、ノスタルジーもある」とアルジェリは続ける。「フレディ・ローチとワイルドカード・ジムでコンビネーションを打ち込んでる姿、あのフットワーク、朝のランニング、拳にタオルを巻いて走る姿――全部がノスタルジーそのものだよ。」
「でも大事なのはここだ。選手はジムでは老けない。リングの上で老けるんだ。ジムでどれだけ良く見えても、土曜の夜にどう見えるかがすべてだ。」
アルジェリ自身、それを身をもって知っている。彼はかつて4連勝中で、再び大舞台が見えていた。しかし2021年12月、リバプールで当時無敗だった
コナー・ベンと対戦し、夢は打ち砕かれた。そして今週、ラスベガスのPPV.comでライブチャットの共同ホストを務める彼は、あの夜の重みを理解した上で、マニー・パッキャオの"今"を見つめている。
当時37歳だったアルジェリは、自分の限界を肌で感じていた。
「いや、あの試合のずっと前から感じてたよ」と語るアルジェリ。英国でのその夜、彼はコナー・ベンに4ラウンドTKOで敗れている。
「ベンと戦ったとき、俺は38手前で、彼は25歳だった。30代の俺はケガだらけで、長期のブランクもあったし、“35歳の身体は25歳のそれとは違う”って現実を突きつけられた。反応もボクシングIQも、コンディションもまだ良かったけど、エンジンが違う。何かが違うって、ハッキリ分かるんだ。」
「それでもベン戦の後、引退するつもりはなかった。140ポンド(スーパーライト級)に戻って、まだタイトルを目指したかった。でも、もうトレーニングキャンプを乗り切れなかった。すぐにケガをしてしまってね。だから、最後は“仕方ない”と思ってグローブを置いた。体がもう、あのレベルの競技に付き合ってくれなかったんだ。」
「そう考えると、マニーが今でも現役を続けてるのは、本当に驚異的だよ。」
パッキャオは2018年夏から約1年間、ルーカス・マティセ、
エイドリアン・ブローナー、キース・サーマンといった強豪に3連勝を挙げた。しかしその頃すでに全盛期を過ぎていたのは明らかだった。そして2021年8月、急遽代役で対戦した
ヨルデニス・ウガス戦では、誰の目にも明白だった――「ついに終わった」と。
……そう思われていた。だが、また彼は戻ってきた。ならば問おう――今回は、“不可能”を可能にできるのか?
「マニーはこれまで何度も“無理だ”と言われながら、それを覆してきた男だ。彼自身、それを誇りにしている」とアルジェリは語る。
「今回も勝てる可能性はあると思う。なぜなら、最後まで残る武器は“パンチ力”だから。マニーはまだパンチがある。そしてバリオスは被弾が多くて、ノックダウン経験もある。世界レベルじゃない相手に顔を腫らされることもあるし、打ち合いを好むタイプだ。」
「マニーが復帰を決めたのは、勝機があると見ているから。彼なりの計算がある。だから、俺は彼が完全に夢を見ているとは思わないよ。」
このタイトル戦は、プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)の豪華イベントのメインを飾る。世界タイトルマッチが2試合、有望株のコンテンダーたち、そして元王者たちの復帰戦も含まれ、まさに“盛りだくさん”な夜だ。ラスベガスで開催されるこの大会は、Prime Videoのボクシング中継を締めくくるビッグナイトとなる
(PPV価格は\$79.95)。