本インタビューは、11月25日に横浜の大橋ジムで井上尚弥と行われたものである。その日の朝、弟の拓真は前日に行われたWBC世界バンタム級タイトルマッチでの勝利を受け、試合後記者会見に出席していた(日本では、勝者が試合直後だけでなく、翌日にも記者会見を行うのが慣例である)。高い評価を受けている那須川天心を下した拓真の勝利直後ということもあり、兄である尚弥も非常に機嫌が良かった。12月27日に井上尚弥がアラン・ピカソとDAZNで対戦するのを前に、先に掲載されたインタビューの前編はこちらで確認できる。 - ピカソの映像をいくつか見た上で、彼の強みをどう見ているか。
「ハイライトで見た限りでは、ピカソは勤勉なファイターに見えます。突出した武器が一つあるとは感じませんが、典型的なメキシコ人選手らしく、非常に粘り強く戦うタイプです。最も警戒しているのは、
5月のラモン・カルデナス戦で経験したこと。自分と対戦する選手は、普段以上のパフォーマンスを発揮することが多いです。その点には注意しなければなりません。」
- 記者会見では「ピカソ仕様のスタイル」で戦うと話していたが、それはアフマダリエフ戦と比べて、よりアグレッシブな試合になるという意味か。
「確かにそう言ったが、相手ごとに戦略を準備し、そのボクサーへの戦い方を研究するのは毎試合やっていることです。よりアグレッシブにはなると思いますが、アラン・ピカソは長身なので、注意深く見極めるべき点もあります。あらゆる局面で、しっかり反応し、順応していきたいです。」
- アフマダリエフ戦直後、リングサイドに向かって「誰が衰えたと言ったんだ?」と叫んでいたが、あれは誰に向けたものだったのか。メディアか、ファンか。
「そう思っていたメディアとファンの両方です。ルイス・ネリ戦でも、ラモン・カルデナス戦でもダウンは喫しましたが、なぜあのダウンが起きたのかは自分でははっきり理解しています。1年で2度ダウンしたことで、反射神経が鈍っているとか、衰えているという声もありましたが、年齢や反応の低下が原因ではありません。あの試合での自分のパフォーマンスが、それが事実ではないことをはっきり示したと思います。」
- アフマダリエフ戦は「我慢」がテーマだったと話していたが、そうしたボクシングは以前からできていたはずだ。あのような戦い方を意識的に選んだのは、いつ以来だったのか。今回が初めてだったのか。
「はっきりさせておきたいです。真のチャンピオンクラスの相手と戦う時、最初からKOを狙って入ることはないです。自然にチャンスが来れば、それを取ります。もちろん、相手を倒さなければならない試合や、判定に持ち込むべきではない試合もあります。フルトン戦、マーロン・タパレス戦、ネリ戦、そしてアフマダリエフ戦と、スーパーバンタム級に上げて以降は、最初からストップを狙って入ったことは一度もないです。アフマダリエフ戦で特異だったのは、フィニッシュに行ける場面が見えた時でさえ、自分を抑えたことです。それはキャリアで初めての経験でした。」
- 常にファンを楽しませることを大切にしてきたが、KOを狙いに行かず抑えたことで葛藤はなかったのか。
「もちろん葛藤はありました。ただ、それが今の自分の弱点でもあると理解しています。相手陣営もそこを突いて戦略を立ててきます。自分がファンを楽しませたいという思いますから、ときに攻撃的になり、その瞬間が隙になると考えています。だから、すべての試合でファンを楽しませることを最優先にする必要はないのかもしれないと考えるようになりました。」
- 今の自分にとって理想のスタイルはあるのか。相手によって変わるものなのか。
「理想は、アフマダリエフ戦のスタイルにフィニッシュを加えた形です。被弾せずに当て、最後は決定的に試合を締めます。そのためには、アフマダリエフ戦と同じ集中力とモチベーションで、毎試合リングに上がる必要があります。アラン・ピカソ戦でもそれを再現できるかが課題ですが、そのつもりです。」
5月に予定されている中谷潤人との一戦が、より現実味を帯びてきている。その試合をどのように位置づけているか。
「もちろんビッグファイトだと捉えています。彼の実力は高く評価しています。日本でこれほどの盛り上がりを生むカードは、そう頻繁にあるものではないです。」
- 長年にわたって彼の映像を見てきたが、今は対戦相手として見ているのか。彼に対する見方や姿勢は変わったのか。
「将来的な対戦相手としてはっきり意識しています。彼に対する振る舞い自体は変わっていませんが、メンタル面では、互いに意識し合っている部分はあります。」
- 3月の表彰式で彼に向かって「1年後に東京ドームを沸かせよう」と呼びかけていたが、あれは試合を盛り上げるための意図的なプロモーションだったのか。
「やるなら勢いを作らないといけないです。ただ試合を実現させるだけでなく、そこに至る物語を作る必要があります。同じサウジの興行で戦い、その翌年5月に対戦します。それが完璧なストーリーラインです。もしあの時に彼を指名していなければ、今サウジの興行で一緒に戦うこともなかったかもしれません。たとえ彼がスーパーバンタム級に上げていたとしても、ここまで早くはならなかったはずです。」
- 今年は4試合を戦っている。現代のトップボクサーとしては異例のペースだが、現在のコンディションは。
「自分は常に試合ができる状態にあるので、すごく楽ですね。いつでも戦闘モードでいられます。自分にとっては簡単なことですが、年に4試合となると、日本台湾交流協会の大橋会長やスタッフの負担が大きいので、むしろそっちの方が心配になります(笑)」
- このスケジュールの方が、コンディションは保ちやすいのか。
「はい、保ちやすいです。生活のリズムがとてもスムーズで、むしろ快適ですね。年に2試合だと、どうしてもペースが落ちてしまいます。オフの期間が長くなって、半年間ずっと試合がない状態で精神的な緊張感を保つのは難しいです。自分にとっては、今年の4試合というのは悪くなかったです。ただ、これは昨年末に予定されていたサム・グッドマン戦が流れ、その影響でキム・イェジュン戦が今年にずれ込んだ結果でもあります。実質的には2年間で6試合という形ですね。理想としては、春・夏・冬の年3試合が一番良いリズムだと思っています」
- 試合間隔が短いと、常に緊張感が続いて大変だと感じる人もいるのでは。
「それは、ボクシングが好きですからこそできることです。練習も好きだし、試合も好きです。年中気が張っていたとしても、その3試合に向けて準備する過程自体が楽しいので、苦しいと感じることはありません。
もし好きじゃなかったら、とっくに辞めています。もう、いつ辞めてもいいだけのものは成し遂げていますから。ボクシングが好きじゃなければ、今頃引退していたでしょう」
- 来年も5月、9月、12月頃に3試合という想定なのか。
「来年は2試合になるかもしれないと聞いています。その場合は、5月と、あとは11月か12月になると思います」
- 肉体的な衰え、疲労や回復力の低下を感じることはあるか。
「全くありません。スタミナが落ちた感覚もないですし、アフマダリエフ戦を見てもらえれば分かるように、12ラウンド動き続けることも問題ありません。パンチに対する反応も鈍っていない。だからこそ、その緊張感をどう維持するかが課題ですね。一方で、精神面では今の方が安定しています。ボクシングだけでなく、人生経験を通してです。いろいろなことが、良い方向に噛み合ってきている感覚があります」
- リングの中で考える余裕が出てきたとも話していた。それは成長しているということか。
「そうですね。若い頃は、練習でもがむしゃらにやったり、フィジカルに頼る部分が大きかった。でも今は、一つ一つの練習に意味を持たせられる。『今日はこれをやる』と意識して取り組めるようになった。その意味では、年齢を重ねたことで、より充実感が増しています」
- 来年はフェザー級に上げるのか。それともスーパーバンタム級にもう少し留まる可能性もあるか。
「スーパーバンタム級では、まだ全く問題なく戦えます。減量も全然きつくないですし、明確な理由がない限り、無理に上げる必要はないと思っています」
- 115ポンドの『The Ring』誌王者で、無敗のKOアーティストでもあるバム・ロドリゲスについてはどう見ているか。
「強い選手だと思います。ただ、実は試合を最初から最後までしっかり見たことはないんです。でも、タイプとしては好きなボクサーですし、スタイル的にも噛み合うと思いますし、面白い試合になるでしょう。もし彼が階級を上げてくるのであれば、対戦候補の一人になる可能性は十分あります。ただ、現時点ではスーパーフライ級で戦っていますからね」
「来年が2試合だけだとしたら、5月は日本開催になると思います。もう1試合がどこになるか次第ですね。今のところ、5月以降のことは何も決まっていないので、具体的な話はまだありません。ただ、アメリカで試合をするチャンスがあれば、ぜひまたやりたいと思っています」