ヴィダル・ライリーの記憶は、3歳のときに初めてボクシンググローブを手にしたところまでさかのぼる。
それから24年後、トッテナム出身のライリー(12勝0敗、7KO)は、自身が生まれた場所から数マイルの距離にあるスパーズのスタジアムで、ブリティッシュ・クルーザー級タイトルをかけて戦うことになっている。
この試合は、現Lonsdaleベルト保持者のチーボン・クラーク(10勝1敗、7KO)との一戦で、「ザ・リング・マガジン」が初めて開催する興行の一部として行われる。メインイベントはクリス・ユーバンク・ジュニア対コナー・ベン戦で、
DAZN PPVで生中継される予定だ。
「3歳のときだよ」と彼は「ザ・リング・マガジン」に語った。「俺は3歳でボクシングを始めたんだ。父がいつもテレビでボクシングを流してたから、ある日コンビネーションをいくつかやってみろって言われて、それが3歳にしては妙にサマになってたんだよ」
「父が初めて『お前は全国チャンピオンになれる』って言ったのは、俺が7歳のときだった。でも全国タイトルを初めて獲れるのは12歳からなんだよ。それで俺は12歳で初めて勝って、そこから何度も何度も勝ち続けたんだ」
「だから、父には何かが見えてたんだと思う。まるで運命みたいな感じだった。俺はこの道を歩むように定められてたっていうかさ。それが俺のDNAに刻まれてるんだよ。あとはこの旅を最後までやり遂げるだけだ」
ライリーはアマチュアとして技を磨き、2013年にはヨーロピアン・ジュニア選手権で銀メダルを獲得したが、ある日、彼の人生は大きく変わった。彼がロンドンのジムでパーソナルトレーナーとして働いていたとき、ソーシャルメディア界の大物KSIがそのジムに現れたのだった。
2人はすぐに意気投合し、ライリーはKSI(本名:オラジデ・オラトゥンジ)のトレーナーとして、2019年にステイプルズ・センターで行われたローガン・ポールとのインフルエンサー対決に帯同することとなった。
その1年前、ライリーはラスベガスのメイウェザー・ボクシング・クラブに足を踏み入れた。KSIのトレーニングキャンプの多くがこのジムを拠点として行われていた。そこで、ライリーはアンドリュー・タビティとの激しいスパーリングを通じて、ジェフ・メイウェザーの目に留まることとなった。
ライリーはメイウェザー・プロモーションズとプロモート契約を結び、そこから本格的にキャリアがスタートした。2018年末にプロデビューを果たし、2ヶ月後にはラスベガスで行われたマニー・パッキャオ対エイドリアン・ブローナー戦のアンダーカードにも出場した。
「アメリカ人って、自然とキャラが立ってるんだよな」と彼は付け加えた。「自分の気持ちははっきり伝えてくるし、こっちがイギリス出身だってこともすぐに言ってくる。『イギリス出身だから何もできないだろ』って、平気で言ってくるんだよ」
「だから最初から見下されて、過小評価される。でも、リスペクトは与えられるもんじゃなくて、自分で勝ち取るものなんだ。俺も最初はアクセントで判断されたけど、数週間経ってちゃんと自分の強さを見せて、証明してきたんだよ」
「向こうで尊敬されてる実力のある選手たちとスパーリングをやったんだ。で、俺がその中でちゃんと戦ってるのを見たら、みんな『ああ、こいつは本物だな』って感じになったんだよ」
「ああいう環境は、性格とか人間性を鍛えるにはすごくいいよ。特に俺がいた当時の年齢、21歳にはね。向こうは威圧感を与えるのが当たり前の世界だから、そこでどうにかやっていくしかない。でも、俺はそういう場所に向いてたんだよ」
ライリーがメイウェザーのジムでの期間を終える頃には、自分の実力をしっかり証明できたと感じていた。
彼は「ケイレブ・プラントやショーン・ポーター、バドゥ・ジャック、マイク・マッカラムみたいな有名な選手たちが、『こいつには実力がある』って認めてくれた。フロイド・シニアも、しばらく経ってから『おいジェフ、このUKのやつ、なかなかいいじゃないか』って言ってくれたんだ」と語った。
そして、メキシコのティファナでプロデビューを果たした頃、南カリフォルニアにあるマイク・タイソンの牧場を訪れる機会が巡ってきた。
「あれは面白かったよ」とライリーは苦笑いを浮かべながら語った。「俺が会ったときのマイクは落ち着いた日でね。“今は年も取って賢くなったし、ちょっと人生の知恵でも教えてやろうか”って感じだった」
「彼のそばにいて、会話して、ああいう場所にいられたのは本当に貴重な経験だったよ。俺はただのトッテナム出身だしさ。まさか自分がカリフォルニアのタイソンの牧場にいるなんて、普通は想像もしないだろ。」
「振り返ったときに、『ああ、あれは本当に俺だったんだな』って思えるような瞬間のひとつだよ」
「それからプロデビューを迎えたんだけど、街をあまり歩き回らなかったよ。街の標識が“歩くな”って言ってるような場所だったからね。でも、ほんとに思うよ。自分がどこにたどり着くかなんて誰にも分からない。あれは本当にかけがえのない経験だった」
ライリーの目まぐるしい旅の最新の舞台は、彼の故郷だ。そこで彼を待ち受けるのは、これまでに何度かスパーリング経験のあるチーボン・クラーク。今回はその腰にブリティッシュタイトルを巻いて、リングに立つ。
ライリーはブックメーカーではわずかに有利とされているが、この試合はカードの中でもほぼ五分五分に近い勝負になりそうだ。しかも、両者はリング上で全く異なるスタイルを持っている。
クラークはおそらく“サーチ・アンド・デストロイ”モードで前に出てくるだろうが、ライリーはそのプレッシャーを封じるために、持ち前のバックフットボクシングを最大限に活かす必要がある。
ロンズデールベルトがかかったこの一戦に向けて、ライリーは完全に気持ちが仕上がっており、自分がその瞬間をものにすると確信している。
「今の自分の人生で、この勝利以上に大事なものはない」と彼は語る。「それが本音だよ。ブリティッシュタイトルを手にするのは、本当に満足感のあることになると思う」
「ブリティッシュタイトルをかけて戦えるチャンスをもらえる人なんて、そう多くない。だからこそ、自分にその機会が巡ってきたのは本当に大きな意味がある。しかも、相手も素晴らしいファイターだし、なおさら特別なんだよ」
「誰にも『楽な相手でブリティッシュタイトルを取った』なんて言わせないよ。今の相手に勝ってブリティッシュチャンピオンになるなら、誰が見ても正真正銘だし、それが本物だって証明になる。そして、その瞬間は俺のものになるんだ」