ブライトン(イングランド)――
土曜夜のメインイベントで主役となる二人の向こう側には、闘う父の影から抜け出すために激しい戦いを重ねてきたもう一人の男が、この興行に名を連ねている。
トミー・ウェルチ自身の言葉を借りれば、彼は“ほとんどジムで生まれたようなもの”だという。というのも、彼の父スコット“ザ・ブライトン・ロック”ウェルチは、ヘビー級世界タイトル挑戦者であり、元英国王者・英連邦王者として知られる存在だったからだ。
しかし、その姓がボクシング界で道を開いてくれるどころか、ヘビー級コンテンダーのウェルチ(16勝無敗、9KO)は、2020年12月にプロデビューして以来、むしろチャンスを掴むためにより厳しい戦いを強いられてきたと感じている。
「これまでのキャリアは、おそらく想像し得る中で一番きついものだったと思う」とウェルチは
「ザ・リング・マガジン」に語る。「父がいて、しかもこの競技であれだけ尊敬を集めているにもかかわらず、それが俺を助けてくれたことは一度もない。」
「プロモーターたちに必死で頼み込んで、試合に出してくれ、チャンスをくれとお願いしてきたが、まともに声が掛かったことは一度もない。キャリアは途切れ途切れで進んできたが、それでも自分の順番が必ず来ると信じるしかなかった。」
「俺たちはすべてを自分たちだけの力でやってきた。本当に厳しかった。より険しい道を歩んできたからこそ、次のレベルへ行く原動力になると信じている。普通の連中以上に、俺は自分自身を闘わせ、築き上げなければならなかった、神に誓って。これは一切“与えられたもの”なんかじゃない。金も時間も、その分だけ失ってきたんだ。」
現在30歳になったウェルチは、父のブライトンのジムに身を置いてすでに30年になる。赤ん坊のころはリングの隅に座り、アマチュアを経て、今はプロとしてそこに立っている。
「父は、俺を最初にジムに連れて行ったのは生後6カ月のときだと言っている。それ以来、俺はそこから離れたことがない」とウェルチは語る。「父は俺に『ここがお前の家だ』と言ったんだ。」
「俺にはつらかった。周りには、何も持たずに育ってきたような手強い連中がいた。俺が“金持ちのガキ”だと思われていたから、いつも潰しに来るような空気があった。だから俺はそれに立ち向かわなきゃならなかった。8歳のとき、体重は9~10ストーンあった。10歳のときには、17歳のアルバニア人の少年とスパーしたのを覚えている。子どものころは、よくボコボコにされたよ。」
「俺は本当に厳しい環境でやってきた。ジムを出るときにはいつも痛みだらけだった。家に帰って、つらすぎて泣きながら眠りにつく日だってあった。だけど、そういう経験が人間を強くするんだ。」
ウェルチの道が、ブライトンでもう一つの名門ボクシング一家であるユーバンク家の長男と交わるようになるまで、さほど時間は掛からなかった。クリス・シニアは、ジョッパーズにモノクル、巨大なトラックという独特のスタイルで90年代の海辺の街に伝説的な存在感を放っていた。そして当初こそ息子をボクシングに関わらせることに消極的だったものの、ほどなくして
クリストファー・ジュニアもまたジムに足を踏み入れることになった。
「ジュニアのことは、おそらく俺が12歳のころから知っている」とウェルチは語る。「2年ほど同じ学校に通っていたが、彼は俺より5年上だ。」
「彼と彼の名前が学校で鳴り響いていたのを今でも覚えている。俺は片方の“ボクシング側”で、彼はもう片方だった。実際には、弟のセブのほうが近い存在で、俺たちは何千ラウンドも一緒にスパーしてきた。」
「でも俺は、クリスとも一緒に成長した。俺が14歳で、彼が19か20のときにも、ずっとスパーしていた。」
彼らの関係はすでに20年近く続いているとはいえ、だからといってウェルチが土曜の夜に“チーム・ユーバンク”へ全面的に肩入れするわけではない。
「俺とコナー(ベン)も仲がいいんだよ」とウェルチは言う。「コナーもクリスも、二人とも俺のジムに来たことがある。二人が試合をするなんて話が出るずっと前から、コナーは俺に会いに来ていた。」
「一時期、二人はまったく違う階級で、まったく別々の道を歩んでいて、正直、彼らが戦う姿なんて全然想像できなかった。ところが今では再戦に突入し、ボクシング界で最大の宿敵同士になっている。」
「俺はその真ん中にいる立場だから、二人とも大事な存在で、本当に難しいんだ。」
しかし実のところ、ウェルチは土曜夜の因縁の再戦について深く考える余裕などなかった。同じリングで数時間前に控える、自身の“目の前の仕事”に意識のすべてを向けているからだ。
長年ビッグチャンスを求め続けてきた末に、ついにその機会を手にした。今回の
リチャード・リアクポー戦だ。
The Ring「Unfinished Business」興行(
DAZN PPVでライブ放送)アンダーカードでの一戦として、そのチャンスが訪れたのである。
キャリアで初めて、10/1のアンダードッグと見られるウェルチは、対戦相手を事前にしっかり把握し、人生を変え得るこの試合に向けて“集中したキャンプ”を積むことができた。
「特定の相手に向けて練習したことなんて一度もなかった」と彼は続ける。「ただ練習して、そして電話がかかってきて『よし、2週間後に試合だ』と言われるだけだった。」
「特定の相手に向けて7~8週間も準備できるなんて、ずっと楽しみにしていたことなんだ。それを実現するまでに5年かかった。1週間後には変わるかもしれない相手を想定して練習するのではなく、ずっと同じ“ひとつの顔”だけを見据えて集中してこられた。」
「これまでには山あり谷ありで、何が待っているのか分からない状況ばかりだった。リングに上がるまで、相手がサウスポーなのかオーソドックスなのかすら分からないこともあった。だから今回は本当にやりやすかった。リアクポーがどんなファイターか分かっていて、そのためのトレーニングを積むことができた。」
「もうやるべきことはすべてやった。俺はギャンブルをするタイプじゃないが、自分自身には賭ける。これは、俺がエリートの舞台へ飛び出すロケットだ。11月15日には、誰もが俺の名前を知ることになる。」
クリス・ユーバンク・ジュニア対コナー・ベンⅡは「The Ring: Unfinished Business」のメインを務め、
DAZN PPVで東部時間午前11時45分/グリニッジ標準時午後4時45分からライブ配信される。