リヤド・シーズンはボクシング界の構図を一変させた。トップ選手同士が対戦する機会を広げただけでなく、大型興行の実現によって、これまで努力を重ねながらも報われなかったプロボクサーたちにとって、思いがけないチャンスが生まれている。
これまで自分の出番はもう巡ってこないと感じていた選手たちも、マネージャーの名前がスマートフォンの画面に表示されると、少し早く電話を取るようになった。今度こそ報われないアウェー戦ではなく、キャリアを再び輝かせる機会が舞い込んでくるのでは――そんな期待を込めて。
このたび、そうしたチャンスの電話を受け取った最新の選手が、
カイス・アシュファク(13勝3敗1分、5KO)だ。
32歳のスーパーフェザー級ボクサーであるアシュファクは、これまで国内レベルで
突破口を見出そうと努力してきた。そして8月16日、サウジアラビアで開催されるリヤド・シーズンの興行で、無敗の日本人コンテンダー、筒美隼人(7勝0敗、4KO)との試合に臨むことが決まった。
「マネージャーのリー・イートンが試合を探してくれていたんだ。いくつか話はあったけど、時期や準備期間の点でしっくりこないものばかりだった」とアシュファクは『ザ・リング』に語った。
「でも、うちのマネージャーはよく分かってる。必要な準備期間と、自分に合った体重であれば、俺は誰とでも戦う。自分を信じてリングに上がるだけだよ。」
「俺がいつも求めているのは、それだけ。しっかりした通知と、正しい体重。それが今回は完璧だった。だからすぐに『やる』って答えたんだ。」
アシュファクは一流のアマチュアボクサーであり、2014年のコモンウェルスゲームズでは銀メダルを獲得し、2016年のリオデジャネイロ五輪ではイギリス代表として出場している。
しかし、率直に言えば、プロ転向後はアマ時代のような高みにはまだ到達していない。これまで何度も、勝てば次のステージに飛躍できるという絶好の位置に立ってきたが、そのたびに状況が味方せず、チャンスを生かすことができなかった。
2年前、アシュファクは英国スーパーフェザー級王座を懸けた試合で
リアム・ディロンにごく僅差の判定で敗れた。これを受けて、彼は過酷な減量を経てフェザー級に落とし、
マスード・アブドゥラとの試合に臨んだが、5回TKOで敗れてしまう。さらに直近の試合では、昨年12月にリーヴァイ・ジャイルズと対戦し、10回引き分けという結果に終わっている。
アシュファクは頭脳派のファイターであり、自身の最近の戦績が、今回のチャンスを得た一因であることを自覚しているはずだ。
アシュファクは、筒美陣営が自分を相手に選んだことは重大な誤りだと考えており、キャリア最大の舞台が今というタイミングで訪れたのは、まさに人生の節目にふさわしいと信じている。
「これまで勝てたはずの試合で負けたこともあったけど、それらすべてが今の場所に導いてくれたと思ってる。だからこそ、今こうしてここにいるんだ」と彼は語る。
「舞台裏ではいろんな問題があった。プライベートでもジムでもね。でも、あのときは“そのときじゃなかった”んだと思う。」
「俺はずっと“神の計画”を信じてきた。それが今もボクシングを続けている理由であり、ブレずに努力を続けられている理由でもある。ジムで必死に練習してこれたのも、その信念があったからだよ。」
「今はすべてが落ち着いてきた。リーヴァイ・ジャイルズ戦の前からライアン・ヴィッカーズという新しいコーチと組んでいて、そのときは出会ってまだ7週間だったけど、今はしっかりと関係が築けている。」
「ジムでも調子は最高だし、私生活もずっと落ち着いてきた。今の自分は本当にいい状態にいるよ。よく言われるだろ? “ハッピーなファイターは危険なファイターだ”って。今になってその意味が少しずつ分かってきた。」
アシュファクの自信の一因には、新トレーナーのライ・ヴィッカーズと共に、アマチュア時代の成功を支えた本来のスキルやテクニックに立ち返っているという点がある。
プロの過酷な世界では、アマチュア時代の技術だけで通用するわけではないが、アシュファクはスタイルを順応させようとしすぎた結果、自分の本来の強みを見失っていたと感じている。
「彼(ヴィッカーズ)は、そもそも自分が“これだけ強くなれた理由”によりフォーカスしてくれている。それに対して、これまでのコーチたちはいろいろな武器を足してくれていたんだ――それも今も自分の一部として残ってるよ」とサウスポーのアシュファクは語る。
「誤解しないでほしいけど、これまで指導してくれたコーチたちからも多くのことを学んできたし、その小技も今でも使っている。ただ、今のコーチは、自分が最も得意とすることに集中させてくれて、それによって自分の能力を最大限に引き出してくれているんだ。」
「(新しいコーチへの)移行期には、自分の得意なことをあまりやらなくなることもあると思う。でも今は、プロとしての年月の中で多くのことを学んできたし、その経験が活きてる。俺はアマチュア時代にすごくアマチュアスタイルだったから、プロ仕様に適応するのに時間がかかった。でも今は、これまでのコーチたちから学んだ“ちょっとした技術”を取り入れ
彼の弟であり、エキサイティングなスタイルを持つ筒美怜人(2勝0敗、1KO)は『ザ・リング』誌のアンバサダーを務めており、最近ニューヨークで開催された同誌のショーケースイベント2大会にも出場している。兄・筒美隼人にとっては、今回が日本国外での初戦となり、自身の存在感を本格的に示すための大きな一歩となるだろう。
アシュファクは、筒美の名前を知ったのは対戦候補として挙がったときが初めてだったと明かしている。
「本当にこの試合の話が出てからだよ」と彼は語る。
「弟のことは数年前から知ってたんだ。というのも、俺が関わっていたキューバ人選手を彼が倒したことがあったから。俺の見る限り、あの弟が主役になるんだろうなって思ってる。ニューヨークの興行にも出てたしね。でも、まさか兄がいるなんて知らなかった。弟(怜人)は前に出てプレッシャーをかけるタイプだけど、今回俺が戦う兄(隼人)はもう少しボクサータイプなんじゃないかな。」
今回の筒美隼人との試合は、アシュファクにとって新しいファン層に自身を知らしめるだけでなく、自分自身を再定義するチャンスでもある。
これまで不運やタイミングの悪さに苦しんできたアシュファクだが、もしここで重要な勝利をつかむことができれば、これまでの苦難すらもすべて意味のあるものに変わるだろう。
「自分が“アウェーの相手”として見られてるのは分かってる。でも、それでも俺は自分の実力を信じてる」と彼は語る。「この相手には勝てるって確信してるからこそ、サウジに向かうんだ。数合わせじゃない。相手をひっくり返して勝ちに行く。」
「俺は神の存在とその導きを信じてる。そして、今自分がこの舞台に立てるのも、何かしらの理由があってのことだと思ってる。」