圧倒的な試合運びではなかったものの、ニック・ボールは意図的に冷静さを保ち、10ラウンドをかけてTJ・ドヘニーを崩し、先週末、WBAフェザー級世界タイトルの2度目の防衛に成功した。
28歳の王者は楽な展開とはいかなかった。ジャッジ3人全員が、最初の4ラウンドのうち1ラウンドをドヘニー(26勝6敗、20KO)に与え、さらにベテラン審判のジョン・レイサムは第7ラウンドもオーストラリア在住のアイルランド人、ドヘニーに採点した。その後、ボールは第9ラウンドにレスリングのような投げ技を使ったとして減点を受けた。
試合後の反響の多くは、第1ラウンド終了のゴングが鳴った直後に見せたボールの怒りの反応に集中した。ドヘニーがレフェリーのマイケル・アレクサンダーに「ブレイク」と指示された後もヘッドロックを解かずにいたため、ボールはタイ式キックボクシングのバックグラウンドを思わせるような膝蹴りで応戦した。
ボール(21勝0敗1分、13KO)は試合後、自身のレスリングのような投げ技とあわせて、接近戦での怒りの感情を今後は違う形でコントロールするべきだと認める。小さなミスが命取りになる場面では、冷静さがより重要になるからだ。ただ彼は、ポール・スティーブンソン・トレーナー兼マネージャーの指導のもと、ジムで練習することに集中し、それを試合で実行することができたとも語る。
試合後、『リング・マガジン』の取材に応じたスティーブンソンは、あらゆる要素を踏まえれば「8点/10点の出来だった」と評価する。
「TJは“バナナの皮”のような相手だ。やりにくいサウスポーで距離を取るスタイルを取る。こっちが前に出ると捕まるし、出ないなら出ないでボクシングをされる。だから攻めながらも不用意に飛び込まないことが大事なんだ。以前の日本の選手たちは、そこでハマってしまった。
ニックはリスクをうまく管理することができた。パンチを選び、一晩中あの力強いジャブを打ち込み、ボディも的確に攻めることができた。パンチの精度はほぼ完璧で、ドヘニーを崩すには十分だった。」
リバプールのM&Sバンク・アリーナに集まった何千人もの観客は、何度かスタンディングオベーションを送ることを抑えられなかった。ボールが見せる圧力とダメージの蓄積に、まさにハイライト級のフィニッシュを期待する瞬間があったからだ。ドヘニーも粘り強く耐えるが、ボールの勢いは止まらなかった。
このイベントは、まさにボールのため、そして彼の仲間であるエヴァートン・レッド・トライアングル・ジムのもう一人の新星のために組まれる。そのジムでともに練習する友人であり、バンタム級の有力コンテンダー、アンドリュー・ケイン(14勝1敗、12KO)も登場し、チャーリー・エドワーズを相手にやや地味な12ラウンド戦を制する。
スティーブンソンは続けてこう語った。
「ニックの成功は、ジムにとっても、リバプールの街にとっても素晴らしいことだ。うちのジムは1920年から続く、最も古いジムで、今は勢いがある。彼やアンドリュー、マクグレイル兄弟のような選手たちが次々に出てきて、お互いに刺激し合って成長する場になっているんだ。」
「壁にぶつかりながらも、舞台裏で懸命に努力するすべての選手たちが、今ようやく見えてきたんだ。私がずっと言ってきた通り、『一生懸命働けば、世界王者への階段を上ることができる』ってね。アンドリューも今やその扉を叩いている段階で、年内にはニックと肩を並べる可能性もあるよ」
今回は、ボールもじっくりとこの瞬間を味わうことができた。5か月前、リバプールでの前戦(対ロニー・リオス)以来の凱旋試合となり、プロモーターのフランク・ウォーレンも「また近いうちに、英国のトップファイターの一人としてこの地で祝福を受けることになる」と約束する。
この1年について、『リング誌』の取材に対し、ボールはこう語る:
「ずっと、自分をここまで連れてきたものを続けるだけだった。努力と規律、それにずっと一緒にやってきた仲間たち。フランクがリバプールでまた興行を開催するようになって、『この街が本当に自分を支えてくれているんだ』って思うようになった。ふと立ち止まって、自分がどこまで来たのかを振り返る時間をくれる。努力が何をもたらすかを証明するもので、それは自分にとって大きな意味があるんだ」
井上尚弥との対戦の話題が飛び交う中で、ニック・ボールはあるTwitterの投稿を見せられると笑顔を見せた。その内容は、身長185cmのWBO王者ラファエル・エスピノサ(26勝無敗、22KO)との統一戦の可能性について議論するもので、エスピノサは5月4日に3度目の防衛戦としてエドワード・バスケス(17勝2敗、4KO)と対戦する予定だ。
「背が高い方か?ああ、それもいいね」とボールはにやりと笑う。
「ちょっと背を伸ばさないと届かないけど、小柄な選手の方が上の方は当てづらいからね。俺はやる気満々だよ」