名古屋発――インタビューを終えた後、元スーパーバンタム級統一王者ム
ロジョン・アフマダリエフが通訳を通してこう尋ねてきた。
「この試合、どっちが勝つと思いますか?」
72時間を切った日曜、日本のIGアリーナで、ウズベキスタン出身の技巧派サウスポーが、無敗の4団体統一王者・
井上尚弥との大一番に挑む。ホテルのロビーで向き合った挑戦者は、目を大きく見開き、自信をにじませた笑みを浮かべていた。答えを口にする前から、彼は結果を察していただろう。
「井上が終盤TKOで勝つと予想します。ただ、判定までもつれる可能性もあると思います」。
短い沈黙のあと、“MJ”ことムロジョン・アフマダリエフはうなずいた。「試合後に会いましょう」と言い残し、肩を軽く叩いてチームの仲間と去っていった。予想に気分を害したわけではない。ただ、自分を疑う多くの人々のリストに、ひとり加わっただけだ。
ザ・リング誌スーパーバンタム級2位にランクされるアフマダリエフは、堂々と自信を持つに値するエリートだ。2016年リオ五輪で銅メダルを獲得した後、プロではスピード出世を遂げ、わずか8戦目でダニエル・ローマンを下してIBF・WBA統一王座を奪取した。
その後3度の防衛を重ね、無敗の井上尚弥との激突が迫っていた2023年4月、フィリピンのサウスポー、マーロン・タパレスにスプリット判定で敗れる番狂わせ。キャリア初黒星を喫したが、その後は3連続ストップ勝ちで立て直し、WBA1位として今回の挑戦にたどり着いた。
「ボクシングだけじゃなく人生のあらゆる面で成長した」とアフマダリエフは『ザ・リング』に語る。「人間として大きく成長したし、それを見てもらえるはずだ。この試合を2年待ってきた。いよいよ週末に実現してうれしい。今がベストのタイミングだ。最高のコンディションで、体調も万全だ。
アスリートとして井上を尊敬しているし、その実績も素晴らしい……それは疑いようがない。ボクシングでは彼は優れているが、私のほうが強い。彼にはスピードもパワーもあるが、私は彼以上だ」。
今回が初来日のアフマダリエフ(30歳)は、直前の3週間を日本で仕上げに費やした。間近で見る姿は引き締まり、目も澄み、肌もきれいで、余分な脂肪が一切ない戦闘体勢そのものだった。
3か月間にわたる代償を払い、いま人々が彼を過小評価することはむしろモチベーションになっている。
「誰にでも意見はある。私やパンチを過小評価してもいい。でも試合になれば見せてやる。井上が私のパンチを受けたとき、どうなるかを。誰も軽視するつもりはないが、この試合で私のパワーを証明する。
ボクシングで一番大事なのはフットワークだ。モハメド・アリを見ればわかる。すべてのボクサーがそこに優れていなければならない」。
井上同様、アフマダリエフも距離感のセンスに優れ、フットワークは最大の武器。正対するオーソドックスとサウスポーの対決では、ポジショニングとタイミングがカギとなる。
さらにMJは、自分の“ナチュラル122ポンド”というサイズが「モンスター」に対抗する上でプラスになると強調する。
「彼は下の階級では全員を倒してきた。そして今、122でも我々を倒している。でも私は本来の122ポンドの選手で、この階級では誰にとっても難敵になる。ここは私の階級だ。
私の体こそが武器だ。私自身が武器なんだ」。
アフマダリエフの言葉には一理ある。井上がこれまで対戦してきたのは、スティーブン・フルトン、キム・イェジュン、ラモン・カルデナスといった元来スーパーフライ級の選手たちだが、今回の相手は少し事情が違う。MJはフルトンよりもパンチ力があり、キムやカルデナスよりもはるかに経験豊富だ。しかも
忘れてはならないのは、カルデナスですら井上をダウンさせているという事実だ。
評価や予想はどうであれ、アフマダリエフは戦うためにここにいる。会話の中で彼が井上という世界ボクシング界でも最難関のひとりを乗り越えられるかどうかについて、疑念をにおわせる瞬間は一度もなかった。夢を叶えると固く決意した、本物のファイティングマンだ。
「私はウズベキスタン・ボクシングの歴史を作る」とアフマダリエフは言う。「ウズベキスタン初の世界4団体統一王者になる。神の助けを借りて、この日に勝利をつかむ」。
「この試合を何年も夢見てきた。若い頃から、このスポーツで一番になることを夢見てきた。友人も、コーチも、仲間も、国民も、大統領も──みんながこの勝利を待ち望んでいるんだ」。