矢吹正道が112ポンド(フライ級)への階級転向初戦で見事な成果を挙げた。日本・常滑で行われたIBF世界フライ級タイトルマッチで、矢吹はアンヘル・アヤラを12回TKOで下し、新王者の座に就いた。
矢吹(18勝4敗、17KO)が南アフリカのシベナティ・ノンチンガをストップしてIBF世界ライトフライ級王座を獲得したのは、わずか昨年10月のことだった。それから5か月、鈴鹿出身の矢吹は早くも2階級制覇を達成した。
試合の舞台となったのは愛知県のスカイエキスポ・アリーナだった。32歳の矢吹は夢のようなスタートを切った。初回、前に出てきたところをガードの下がったアヤラ(18勝1敗、8KO)に左フックを決め、ダウンを奪った。
第2ラウンドも矢吹の勢いは止まらなかった。序盤のこの段階で、アヤラは目の前の大舞台に圧倒されている様子を見せていた。 アヤラは顎を上げたまま突っ込む場面が続き、それが代償となった。第2ラウンド残り42秒、矢吹のストレート右がクリーンヒットし、再び捉えられた。
その直後、バッティングが発生し、矢吹は右目の上、アヤラは右目の下をそれぞれカット。アヤラにとっては、今回がキャリア初のメキシコ国外での試合だった。
矢吹を苦しめる場面こそ少なかったものの、アヤラのタフさには疑いの余地はなかった。矢吹がじわじわと攻め立て、反撃の流れを封じる中でも、アヤラは気力を振り絞ってラウンドを重ねていった。
第9ラウンドと第10ラウンドは、アヤラにとって特に過酷な展開となった。ボディへの攻撃を集中的に浴び、耐え抜く場面が続いた。アヤラの顔は血に染まり、腹部にもダメージが蓄積していた。あと数ラウンドが残されていたが、再び、矢吹にとっての栄光の夜が訪れようとしていた。
顔面を血に染めた両者は、最後の3分間に向けてリングへと足を運んだ。奇跡の逆転劇が求められるアヤラ、一方で矢吹は勝利を手繰り寄せるべく冷静に戦い抜こうとしていた。
アヤラは前に出るしかなかったが、その動きは重く鈍かった。残り1分30秒、矢吹と打ち合いに持ち込もうとしたその瞬間、自身のパンチを放とうとしたところに強烈な右ストレートを浴び、この日最も深刻なダウンを喫した。
レフェリーからカウントを受けたアヤラは、顔面を血で染めながら、それでも試合続行の意思を示すためにうなずくだけだった。 試合はさらに20秒ほど続いたが、残り1分強のところで中村勝彦レフェリーが間に入り、試合を止めた。
矢吹はコーナーで歓喜に沸き、2階級制覇の偉業を全身で喜び合った。一方、勇敢に戦い抜いたアヤラは、目の前で起きた出来事に呆然とするしかなかった。
矢吹には今後さまざまな選択肢がある。その中には、WBA・WBC・Ringの各王座を保持し、「Ring」誌のパウンド・フォー・パウンド10位にランクされる寺地拳四朗との三度目の対決も含まれている。寺地はつい先日、年間最高試合候補とも言われる一戦で、阿久井政悟を12回TKOで下したばかりだ。