ボルトンのボクシングといえば、まず思い浮かぶのは元世界王者アミール・カーンの名だ。だが、カリール・マジッドもその後に続く存在として名乗りを上げている。ジュニアウェルター級の新鋭として、地元ボルトンではすでに熱烈な支持を集めており、ファンは彼を一目見ようと試合会場に足を運ぶ。
今週末、マジッドはボルトンを離れ、マンチェスターのコープ・ライブ・アリーナで開催されるジョー・ジョイス対フィリップ・フルコビッチ戦のアンダーカードに出場する。対戦相手は同じく無敗のアレックス・マーフィー。会場までは車で約40分の距離だが、多くのサポーターが彼と共にマンチェスターへ向かう。
「正直、サポートは本当にすごい。感謝してもしきれません」とマジッドは語る。「今回の試合だけで、これまでにチケットを1000枚くらい捌いていて、今もまだ売っているところです。信じられないようなサポートで、それは今回だけじゃなく、どの試合でも変わらない。本当にありがたいし、サポーターには頭が上がりません。自分は“ファン”とは呼びません。“サポーター”と呼んでます。」
そのサポーターたちは、前戦と前々戦でボルトン・ホワイト・ホテルを埋め尽くした。マジッドはアリン・フローリン・チョルチェリ、ラミロ・ガルシア・ロペスに勝利し、これで14戦全勝(4KO)。地元から全国、そして世界へと羽ばたくヒーローを求めるボクシング界において、27歳の彼はその筆頭候補のひとりだ。
「なぜみんなが自分を応援してくれるのか……それは自分よりあなたたちのほうが分かるんじゃないですか?」と笑いながら、マジッドはこう続けた。「偉そうに聞こえるのは嫌だけど、自分は小さなホール会場の草の根ボクシングから這い上がってきた。そこで築いた強いサポート体制が、いまの大舞台でも自分を支えてくれている。自分はただの普通の労働者階級の若者で、夢を追いかけて、ただ遠くまで行こうとしているだけなんです。」
13勝無敗のマーフィーとの一戦は、両者にとって初めての10回戦。この試練を乗り越えられれば、マジッドの夢はさらに現実に近づく。
「これまでのキャリアの中でも、今回が一番のステップアップになると思ってます。相手は13勝無敗、自分は14勝無敗。どちらも負けなしで、勝ったほうが進むことになる。自分が勝つと信じてるし、神のご加護があればそうなる。今年は本気でキャリアを加速させたい。昨年はケガや母の体調不良もあって動けなかったけど、今年はその続きをやるつもりです。2023年の止まったところから再始動します。」
2023年、マジッドは3戦3勝(2KO)と好調で、イギリス国内では高い注目を集めていた。だが、実際にリングに上がったのはチョルチェリ戦の1度のみ。その後、母親の体調不良も重なり、状況はさらに苦しいものとなった。しかし、母が回復へと向かう中、マジッドも2月のロペス戦で勝利し、2025年を本格的な飛躍の年とすべく動き出している。
例年はカリフォルニアでバディ・マクガートと共にトレーニングを行っていたが、今年は家庭の事情で渡米を断念。それでも、名伯楽マクガートは今週末の試合でもセコンドに就く予定だ。
「バディは、どんなときでも自分と一緒にいてくれる存在です」とマジッドは語る。彼がマクガートに連絡を取ったのは2年以上前のことだった。
「電話で話したとき、彼は“とにかく一度来てセッションをしてみろ。合うかどうか確かめてみよう”って言ってくれて。最初のセッションでいきなり息が合った。それがもう2年以上前の話なんですよ。ほんと、時が経つのは早いですね。」
若きボクサーにとって、時間は矢のように過ぎる。アミール・カーンが地元の少年からオリンピックを経て、プロとしてスーパースターへと成長した姿は、今も多くの人々の記憶に残る。そして、マジッドもその歩みを間近で見ていた。
「彼は、自分のような存在や南アジア系コミュニティにとって、間違いなく道を切り開いてくれた人です。世界王者になって、信じられないようなことを成し遂げた。自分も、神のご加護があれば、いつか同じようなことを成し遂げたいと思ってます。」
マジッドは、その目標に向かって着実に歩を進めている。必要なのは、勝ち続けること、マクガートの声に耳を傾けること、そして変わらぬ情熱で会場を埋めること——簡単な道ではないが、彼には静かな自信がある。
「一戦一戦に集中して、試合を重ねて、神のご加護があれば、今年中にタイトルを獲りたい。それが今の短期的な目標です。でも、本当にありがたいのは、自分が試合から離れていたときも、みんなが離れずに支えてくれたこと。他の選手に乗り換えることなく、ずっと自分を応援してくれた。その想いが、自分を前へと押し出してくれています。」