アンソニー・カカーチェに敗れ、ウェンブリー・スタジアムのリング中央にグローブをそっと置いた瞬間――それはジョシュ・ウォーリントンにとって「戦いは終わった」という明確なメッセージのように見えた。
だが、その暖かい夜からわずか数週間後、ウォーリントンは再びジムに戻り、36戦のキャリア――フェザー級で2度の世界王座を獲得したその道のり――を早々に終えてしまったのではないかと、自問し始めていた。
そして今、あのウェンブリーでの引退示唆から7か月――彼は再びグローブをしっかり締め直し、リングに戻ってくる。復帰戦の相手は、戦績19勝6敗1分(5KO)のアサド・アシフ・カーン。試合はシェフィールドのパーク・コミュニティ・アリーナで行われ、ダルトン・スミス vs マチュー・ジェルマンのアンダーカードとして組まれている。「また始めるんだ、そうだろ?」とウォーリントンは苦笑いを浮かべながら語った。
34歳のウォーリントンにとって、この数年は試練の連続だった。過去6年間で試合数はわずか6戦。そして、それ以上に厳しかったのは戦績で、そのうちの勝利はわずか1つ。キャリア初のユナニマス・デシジョン負けとなったカカーチェ戦は、3連敗目でもあった。
だからこそ、3人の子を持つ父として、その夜すぐにリングを去る決断をしたのも、驚くことではないのかもしれない――とはいえ、正式な引退発表はなされなかった。
「本当は、引退について何か出そうと思ってたんだ」とウォーリントンは『The Ring』誌に語る。「実は、広報担当のジェームズ・マーシャルとちょっと言い合いになったんだ。俺としては、動画でも声明でもいいから、とにかく何かしら出したかったんだけど、彼は『落ち着いて、よく考えよう』って言ってくれてね。
2週間くらい、ただ落ち込んで、自分を哀れんで過ごしてた。でもその間にフラストレーションも溜まってきて、それを吐き出すためにジムに戻ったんだ。そしたらさ、体の感覚も、タイミングも、キレも、スパーも、ミット打ちも――全部まだあるじゃないかって思ったんだよ。
『くそっ、まだまだ全然やれるじゃないか』って思った。じゃあ、あのカカーチェ戦の夜、なぜうまくいかなかったのか? そこから少し深掘りして、自分なりに何が間違ってたのか考え始めた。そうして出た結論は、肉体的にも精神的にも、まだ全然イケる。ただ、いくつか調整が必要な部分があるだけなんだ、ってことさ。」
では、彼がたどり着いたその「結論」とは、一体なんだったのか?
「一番大きな問題は“試合間隔”だったと思う」とウォーリントンは語る。「30歳までに世界ランキング1位になれたのは、1年で3~4試合こなしていたからだ。でも急に、23か月で2試合なんてペースになってしまった。どんなアスリートでも、そんな状態で最高のパフォーマンスなんて出せるわけがない。」
復帰を決意したあとは、まず試合日を決めることが課題となった。プロモーターのマッチルーム・ボクシングとの最初の話し合いでは、メインイベントとしての復帰戦は7月になる可能性が高いと告げられたという。しかしウォーリントンは、それでは遅すぎると判断し、もっと早くリングに戻ることを選んだ。
「正直言って、地元リーズで大きな舞台に立ちたかったよ」と彼は言う。「でも、これ以上ブランクを空けたくなかった。7月なんてまだまだ先だろ? そんなとき、連絡が来たんだ。『明日、興行の発表をするけど、出る気はあるか?』ってね。もう完全に準備できているわけじゃなかったけど、『もちろん出る』って答えたよ。これまで何度もこういう場面をくぐってきたし、必要なときに仕上げられる自信がある。」
もちろん、4月19日の復帰戦で4連敗を喫すれば、それが今度こそ本当の引退になる可能性は高い。だが、格下と見られるアサド・アシフ・カーンに勝てば、再浮上のきっかけになり、より大きなチャンスへの扉が開く。
今後はスーパーフェザー級で戦う予定のウォーリントンは、自身の最後の2戦の相手――リー・ウッドとアンソニー・カカーチェ――が5月10日にノッティンガムで激突する一戦にも、当然ながら大きな関心を寄せている。
「まずは何よりも」とウォーリントンは語る。「リングに戻って、勝って、少し鈍った部分をリセットしたい。それからは、とにかく試合を重ねたいね。今年中にあと2試合できればと思ってる。」
「やれない理由なんてないだろ? 今はベルトを持っていないけど、俺には大きなファンベースがあるし、10回中9回は見応えのある試合をしてる――まあ、ウェンブリーはちょっと“ハズレ”だったけどさ。」
「でも、俺は二度の世界王者で、誇れる戦績もある。だからビッグファイトにだって戻れるし、少なくともコンスタントに試合を続けることはできるはずだ。」
「リー・ウッドとの因縁にはケリをつけたいし、もしそのあとにカカーチェとやれるなら、なおさらいい。最初にウッドとのリマッチが実現しなかったのは、いまでも残念に思ってる。」
「ミック・コンランも、ずっと名前は挙がってたけど実現しなかった相手のひとりだよな。でもあいつも面白い試合してるし、結局みんなが見たいのは“面白い試合”だろ?」
そんなウォーリントンは、昨年のクリスマス直前に妻ナターシャとの間に第3子となる男の子を迎えた。新たな命の誕生は、リフレッシュされたこのスーパーフェザー級戦士にとって、大きな気づきを与えてくれたという。
「今はな、毎秒を大事にしたいと思ってるんだよ。本当に、あっという間に過ぎていくからな。」
「娘たちが小さい頃は、寝てくれなかったりして、ちょっとイライラすることもあった。でも今はもう全部受け止められる。もし息子が泣いてても、“クソッ、どうでもいいさ”って思える。ずっと泣いてるわけじゃないしな。」
“「トレーニングは全然問題ないよ。昔は9時から5時まで働いてたこともあるんだ。だから今さら、ジムに数時間行くだけで泣き言なんか言えないさ。すぐに家に帰って、家族と過ごせる時間が待ってるってわかってるからね。」
「そりゃあ、家を出たくないときもあるよ。1秒でも長く息子と一緒にいたいと思うことだってある。でも、俺がジムに行くのにはちゃんと理由があるんだ。」
――そして、もしかしたらいつか、息子はこう言えるかもしれない。
「俺の父さんは、三度世界チャンピオンになったんだ」。