ジェイミーTKVチシケヴァは大方の予想を覆し、キャリア最大の勝利を手にした。英ダービーのヴァイアント・ライブ・アリーナで行われた壮絶な一戦で、
フレイザー・クラークをスプリット判定で破り、英国およびコモンウェルスのヘビー級タイトルを獲得したのである。
試合の数時間前まで、チシケヴァは経験豊富なクラークに勝利する確率が5対1と見られるアンダードッグであった。クラークは輝かしいアマチュア実績を誇り、2020年東京五輪では銅メダルを獲得している。
しかしトッテナム出身のTKVは、その下馬評を見事に覆し、BBC Twoの生中継という大舞台で宿敵クラークを衝撃的に撃破した。英国の国営放送が主催するボクシング興行としては、2005年3月にクリントン・ウッズがリコ・ホイと対戦しIBF世界ライトヘビー級タイトルを獲得して以来のことであった。採点は115-113でTKV、115-112でクラーク、115-112でTKVという内容であった。
試合後、リング上でTKVは次のように語った。 「最高の気分だ。相手の地元で叩きのめしてやった。彼がクリンチしてくるのは分かっていたし、開始20秒で息が上がっていたのも見えた。ダメージを与えた時点で、これは自分の試合になると確信した。減点を取られても、それでも勝ったんだ。」
「ロンドンでも、トッテナムでも、ウェンブリーでも再戦していい。いつでも、どこでもやる。」
両者は試合週を通して激しい舌戦を繰り広げていたが、その言葉を最初に行動で示したのは初回のクラークであった。3分間を通して、雷鳴のようなアッパーと右を次々と繰り出した。
2ラウンドではTKVも左フックをヒットさせて一定の成果を挙げたが、再び圧力をかけ、内側やロープ際での力比べを制したのはクラークであった。それでもTKVは屈せず、ラウンド終盤に強烈な右アッパーを放った。
3ラウンドでは至近距離での打ち合いの中でTKVのマウスピースが外れる場面があった。その後はクラークがジャブとボディショットを有効に使い、大きな左フックも命中させてTKVに印識づけた。さらにラウンド終了間際、レフェリーのジョン・レイサムはローブローによりTKVから減点1を科した。
4ラウンドではTKVがこの試合最大の見せ場を作り、振り下ろすような右のオーバーハンドをヒットさせ、一瞬クラークをぐらつかせた。ロープ際で追撃を試みる中で右アッパーも決めたが、体勢を入れ替えられると、今度はクラークがアッパーの連打で応戦した。
5ラウンドはほぼ互角の展開で、両者が大きなパンチを被弾した。TKVは再び強烈なアッパーを当てて先手を取ったが、クラークも同様の一撃で相手にダメージを与えた。
6ラウンドも拮抗した攻防が続いた。TKVはラウンド終盤に鋭い左フックを打ち込み、序盤では再びアッパーで成功を収めた。一方のクラークも右アッパーを次々とヒットさせ、試合は消耗戦の様相を呈していった。
7ラウンドの立ち上がりでは、TKVが左から右アッパーのコンビネーションを決めたが、その直後に再びローブローで警告を受けた。それでも勢いは衰えず、左フックがボディにも顔面にも次々と命中した。
8ラウンドではクラークが流れを変えようと前に出て、開始1分以内に大きな右をヒットさせた。至近距離ではなおもTKVが左右の短いパンチで主導権を握ったが、クラークも距離を取った場面では特に右で見せ場を作り、接近戦では再びアッパーを決めた。それに対しTKVは、試合中でもっとも凶暴とも言える左フックで即座に反撃した。
9ラウンドはややペースが落ちたが、前に出て有効打を多く放ったのはクラークであった。TKVがジャブを狙うところに、クラークはくぐりながら右を合わせ、直後に左アッパーを続けた。
10ラウンドの立ち上がりではTKVが再び強烈な左フックを2発打ち込んだが、クラークのジャブでまたもマウスピースが外れた。両者ともに疲労の色が濃くなり、接近戦の鋭さはやや失われたが、TKVはなお左フックで優位に立っていた。
11ラウンドに向けて両者が力を温存していたかのように、クラークは開始直後に右を放ち、それにTKVが同等の火力で応戦した。しかしこの時点で、TKVの右目の上に大きな腫れができていることが明らかになった。それでもTKVは左フックと右を次々と叩き込み、クラークに明確なダメージを与えた。試合最大の猛攻を受けたクラークは、足元がおぼつかない状態で自陣コーナーへ戻った。
クラークのトレーナー、アンヘル・フェルナンデスは、最終ラウンドに送り出す直前まで試合を止める寸前であったが、最後の12ラウンドへと送り出した。TKVはゴングを待たずに試合を終わらせたいという執念を見せ、右、左フック、アッパーとありとあらゆるパンチを浴びせた。今度はクラークのマウスピースが外れた。クラークはこの時点、精神力と粘りだけを頼りに戦い続けるしかなかった。英国王座の夢が再び手の届かないところへ遠ざかっていくことを悟っていたのかもしれない。12ラウンドに及ぶ熱闘の末、両者はともに、ある意味で相応しい形で試合を終えたのである。
その他の試合結果
セミファイナルでは、女子スーパーバンタム級のフランチェスカ・ヘネシーがファビアナ・ビティキを相手に10ラウンドすべてでポイントを獲得し、3者の採点すべてでフルマークの勝利を収めた。
また、同夜の早い時間帯には、ジョエル・コドゥアがボビー・ダルトンをユナニマス判定で下し、イングランド・ウェルター級王座を獲得した。
クルーザー級6回戦では、ジャック・マッセイが初回に右でダウンを喫しながらも、その後立て直してイバン・ガブリエル・ガルシアを4ラウンドでストップした。マッセイは初回のダウンで動揺が見え、その後のラウンドでもカットを負ったが、絶妙なタイミングの短い左フックで試合を締めくくった。
中継のオープニングマッチでは、ブラッドリー・ゴールドスミスがミドル級戦でジョーダン・デュジョンを下し、レフェリー採点79-73で勝利を収めている。