イプスウィッチ発――それは、エディ・ハーンがボクシングプロモーターとして歩んできた15年の中で、最も衝撃的な夜として今も語り継がれている。
2019年6月1日、本来であれば
アンソニー・ジョシュアがアメリカ市場を本格的に突破するはずだった日。しかし、マディソン・スクエア・ガーデンでの試合は、彼の“アメリカン・ドリーム”が一瞬で悪夢へと変わることとなった。
アンディ・ルイス・ジュニアは急遽代役として登場し、下馬評も極めて低かったが、試合は第3ラウンドまでは順調に進んでいた。開始から45秒、アッパーカットとフックのコンビネーションでルイスがダウン。しかし、まさにそこから全てが崩れ始めた。
ルイスはすぐに立ち上がり、今度は逆にジョシュアをダウンさせた。最初のダウンからわずか45秒後の出来事だった。その後もラウンド終了前にもう一度ジョシュアを倒し、さらに第7ラウンドの中盤には再び2度のダウンを奪う。こうしてルイスは世界王者の座を奪取し、バスター・ダグラスが東京でマイク・タイソンを破った時以来とも言われる、ヘビー級史に残る番狂わせを成し遂げた。
ハーンは、アンソニー・ジョシュアのキャリア全戦を通じて彼のプロモーターを務めてきた。サウジアラビアで行われたルイスとの再戦での雪辱も、その一部だ。しかし今、ハーンはまるで“コインの裏側”にいるような感覚を抱いている。今回の舞台では、異なるヘビー級コンテンダーとともに、新たな立場で歴史の一幕に挑むことになる。
マッチルーム代表のエディ・ハーンは、水曜日にイプスウィッチで行われた
ファビオ・ウォードリーと
ジャスティス・フニの一戦(6月7日・ポートマン・ロード)の
発表記者会見に出席した。かつてはウォードリーのプロモーターを務めていたハーンだが、今回はフニ陣営の立場にいる。
そしてハーンは、この試合と約6年前にアンディ・ルイスが番狂わせを起こした試合との間にある奇妙な共通点を指摘した。
「6月7日は、アンソニー・ジョシュアがマディソン・スクエア・ガーデンでアンディ・ルイスに敗れてからちょうど6年と数日。今回の試合には本当に多くの類似点があるんだ」とハーンは語った。
「本来なら対戦相手はジャレル・ミラーだったけど、試合の約4週間前に彼が欠場することになった。こちらは勝利を疑っていなかったけど、今のフランク・ウォーレンと同じように、ファンと放送局のために素晴らしい試合を実現させたかったんだ。」
当時IBF、WBA、WBO世界ヘビー級王者だったアンソニー・ジョシュアとの対戦が予定されていたジャレル・ミラーは、試合前のプロモーションでも「ジョシュアをKOする」と豪語し注目を集めていた。しかしその後、複数の禁止薬物に陽性反応を示し、タイトル戦のチャンスを失うことに。そこで代役として浮上したのがアンディ・ルイスだった。彼はエディ・ハーンにInstagramのダイレクトメッセージを送り、このビッグチャンスを手にしたのだった。
あれから6年、今回もまたジャレル・ミラーはファビオ・ウォードリーの対戦相手として予定されていた。しかし、肩の負傷により試合を断念。そこでマッチルーム所属で無敗のオーストラリア人、ジャスティス・フニが試合数週間前に緊急参戦し、興行を救う形となった。
「今思えば、アンディ・ルイスを選んだのはスタイル的にも試合内容的にも誤った判断だったかもしれない」とハーンは語った。「そして今回、ジャスティス・フニとの試合を選んだのも、それとまったく同じ構図だと思っている。本当に“コピーそのもの”なんだ」
「この状況には嬉しさと寂しさの両方がある」とハーンは語った。「ジャスティスにとっては世界に自分を示す絶好のチャンスになるから嬉しいけど、ファビオのことを思うと少し残念でもある。彼ならジャレル・ミラーに勝てたと思っていたし、その試合を楽しみにしていたからね」
「でも今は、それ(ファビオの夢や物語)を壊しに行かなきゃならない。正直つらいよ。ファビオは本当に素晴らしい人間だからね。彼にかかるプレッシャーはものすごいものがある。ただひとつ言えるのは、これは世界クラスのファイター同士による対戦であり、両者にとって世界レベルで戦うのは今回が初めてだということだ」
「WBOとWBAの両方で1位。無敗のヘビー級同士の激突だ。ジャスティス・フニは本当に実力のあるファイターで、今回の試合では過小評価されていると思う。彼にこのオファーが来たときは、本当に信じられなかったよ」
「フランクはボクシングを知り尽くしている。彼が忘れた知識の方が、俺が知っていることより多いくらいだ。そんなフランクがこういうミスをするのは、本当に珍しいことなんだ」
ウォードリーがフランク・ウォーレンとプロモーション契約を結んだのは昨年8月のこと。その後10月にはフレイザー・クラークを初回でノックアウトし、今回イプスウィッチ・タウンの本拠地で開催される屋外興行は、この契約下での第2戦となる。
「ファビオのことは本気で信じている。だからこそ、ここにいるんだ」とフランク・ウォーレンは語り、フニを相手に選んだのは「間違い」だとするハーンの指摘に対してこう応じた。
「それが、ファビオに対して我々が注いできた投資なんだ。もちろん今回も素晴らしいファイターとの対戦になるが、ファビオはリングに上がれば本物の『ビースト』になる。仕事をきっちりやってのける。前回のフレイザー・クラーク戦でのノックアウトは、おそらく年間最高KOと言ってもいいだろう」
「これはちょっと特別な試合になる。ファビオがこれまでに戦った相手は、全員マットに沈められてきた。全員がダウンを味わっているんだ。彼はその連勝の流れを、今回も絶対に途切れさせたくないと思っている」