ラスベガス発――デリック・ジェームスとアベル・サンチェス。両者はともに、
カネロ・アルバレスに168ポンド級のタイトル戦で挑んだ世界王者を指導した経験を持つ。
ジェームスが率いたのは
ジャーメル・チャーロ、サンチェスが手がけたのは
ゲンナジー・ゴロフキン。いずれもメキシコのスーパースター、アルバレスに判定で敗れている。そのため2人は、今週土曜アレジアント・スタジアムで
テレンス・クロフォードを待ち受ける試練を熟知している。
ただし、勝者予想については意見が分かれている。
ジェームスはクロフォードを支持。その理由のひとつは、4階級制覇王者の揺るぎない自信が、特にスーパーミドル級でアルバレスを相手にしてきた他の挑戦者たちとは一線を画しているからだ。
エロール・スペンス・ジュニア元トレーナーであるジェームスは、クロフォード、アルバレス両者のセコンドを経験した数少ない指導者のひとり。だからこそ、このリングマガジン、IBF、WBA、WBC、WBOのスーパーミドル級統一戦(Netflix配信、米東部午後9時/太平洋午後6時)の行方を独自の視点で見ている。
「みんなカネロみたいな相手と戦うとき、実際のボクサーじゃなく“イメージ”と戦ってしまうんだ」とジェームスは『ザ・リング』に語った。「クロフォードはカネロの幻想と戦うんじゃない。実際の個人としてのカネロと戦うんだ。クロフォードは彼より速いし、よりアスレチックだ。必要なのは規律を保つことだけ。怪物の幻想と戦うんじゃなく、怪物そのものと戦うべきだ」。
アルバレス戦でのチャーロの消極性は、元スーパーウェルター級統一王者が競った試合にする可能性を奪ってしまった。
クロフォード(41勝無敗31KO)同様、チャーロも2023年9月、T-モバイル・アリーナでの一戦で14ポンド上の階級に挑戦。2か月前には、同じ会場でクロフォードがスペンスを9ラウンドTKOで圧倒している。
アルバレス(63勝2敗2分39KO)よりチャーロのほうが大柄だったのに対し、クロフォードの体格上の優位はわずか。さらに、キャリアの大半をスーパーウェルター級で過ごしたチャーロに比べ、クロフォードが147ポンドを超える階級で戦ったのはわずか一度しかない。
「正直、サイズはこの試合では要因にならないと思う。クロフォードがボクシングを貫き、運動能力とスキルを使えば、彼はカネロより速い」とジェームスは語った。「鍵となるのは……スピードだ。カネロがどんなに高いリングIQやカウンター能力を持っていても、クロフォードのアスレチックさとスピードが試合のペースを握り、展開を支配できる。自分はずっとジムで育ち、小さい選手が大きい選手を打ち負かす場面を何度も見てきた。ただ、小さくて優れた選手と、大きくて優れた選手が戦うときは常に試練になる。だから今回はどうなるか見ものだ」。
一方、サンチェスはジェームスとは異なる見方をしている。クロフォードの大胆な階級ジャンプについて、アルバレス級の相手に挑む前にスーパー・ミドル級で数戦を重ねるべきだったと考えているのだ。
また彼は、アルバレスが4か月前にキューバ人のウィリアム・スカル戦で見せた覇気のないパフォーマンスを、プロ19年・67戦のキャリアを経た35歳のアルバレスが「衰えた」証拠とみなすことはできないと強調した。
「クロフォードについて言えば」とサンチェスは『ザ・リング』に語った。「彼が体重を190ポンド台まで増やしてから168まで戻している、という話を読んだが、それはひどいやり方だ。なぜわざわざ減量という負担を自分に課すんだ? もし俺だったら……まあコーチには正しいやり方も間違ったやり方もあるからな。俺なら168~170ポンドくらい、自然な体重で維持して、筋力をつけながら強くしていく。その方が減量で弱らずに済む。第2に、体重を増やしたからといって必ずしもパンチが強くなるわけじゃない。彼のように体重を落とすやり方だと、むしろ強さを失う」。
「第3に、彼は168で戦った経験がない。まずその階級にとどまって何試合かこなし、ジムでスパーリングを積んで、1年かけて体を慣らすべきだ。そうすれば強くしてくれる相手と戦える。ジムでウエイトトレーニングをいくらやっても意味がない。相手に押され、動かされ、嫌なことを強いられ、それに耐えることで強さが養われるんだ。クロフォードはそれを経験していない。唯一階級を上げた時も、支配的だった147での姿とは違って見えた」。
クロフォードは昨年8月、ロサンゼルスのBMOスタジアムでイスライル・マドリモフ(10勝2敗1分7KO)に接戦の末ユナニマス・デシジョン勝利。WBA世界スーパーウェルター級王座を獲得したが、その試合で11連続KOが止まり、以降13か月間リングから遠ざかっている。
サンチェスは、ゴロフキンがアルバレスと36ラウンドを戦った経験から、カネロ相手に渡り合うためにどれほどフィジカルが求められるかを誰よりも理解している。
アルバレスとゴロフキンの最初の2戦は、ミドル級のリミット160ポンドで行われた。そして2022年9月、アルバレスが明確に勝利した第3戦が、ゴロフキンにとって唯一の本格的な168ポンド(スーパーミドル級)での試合となった。
そのときゴロフキンはすでに40歳。殿堂入りキャリアのラストファイトでもあった。一方、クロフォードは9月28日に38歳を迎える。しかし、サンチェスがアルバレスを支持する理由は年齢ではない。
「パンチ力の話じゃない」とサンチェスは語る。「相手にプレッシャーをかけられ、パワーで押され、普段のボクシングができなくなる状況のことだ。彼(クロフォード)は154までの経験しかない。そこからさらに14ポンド上げて、パワーファイター相手に挑むことになる。そういう相手に慣れている選手なんだ。ライトヘビー級の試合でも(ドミトリー)ビボルですら本当には押し返せなかった。コンビネーションを多く出して手数は多かったが、カネロを完全にコントロールできたとは言えなかった。カネロはクロフォードをコントロールできると思う」。
「だから自分はサイズ差に賭けるしかない。誤解しないでほしい。クロフォードは殿堂入り確実の偉大な戦士で、全力を出すだろう。勝ちたいという気持ちでリングに上がる。スカルみたいに消極的じゃない。本気で勝ちに来る。だが彼が挑むのは、とてつもなく大きな試練なんだ」。
ジェームスは、クロフォードがキャリア最大の試合にどう臨むかについてのサンチェスの見解に同意しつつも、自身の経験から「クロフォードはアルバレスのプレッシャーに耐え、相手の優れたタイミングを十分にさばき、判定で勝つだろう」と考えている。
「クロフォードが勝つと信じる理由のひとつは、彼が“自分は誰か”を理解し、信じているからだ」とジェームスは語った。「他の多くの選手はカネロと戦うとき、自分自身に疑念を抱いてしまう。クロフォードにはその迷いがない。彼は自分が何者かを知っている。戦略とゲームプランをしっかり守りさえすれば、勝つことができると思う。もちろんカネロが偉大なファイターであることは否定しない」。
サンチェスもまた、クロフォードが最低限試合を競り合いに持ち込む方法を見つけると感じている。
「クロフォードがやらなきゃならないのは、カネロを常に迷わせることだ」とサンチェスは語った。「下がらせたり、角度を変えさせたり、考えさせ続ける。12ラウンドそれを維持し、手を出し続けられればチャンスはある。ただ、手を出す分、カネロにも隙は生まれる。だから簡単な仕事じゃないと私は思う」。
Keith Idecは「ザ・リング・マガジン」のシニアライター兼コラムニスト。Xでは @idecboxingで連絡可能。