今回は珍しく、トニー・シムズがコナー・ベンに関する質問を受けることもなく、代わりに急成長中のミドル級プロスペクト、ジミー・セインズについて存分に語ることが許されている。
サウスポーのセインズ(9勝0敗、9KO)はまだ公式なリングネームを持たないが、マッチルームのジェイミー・ムーアによって“ブレントウッドのベテルビエフ”と名付けられたこの異名が定着。ハードヒッターでありながら、技術と繊細さを兼ね備えていることを証明したいと意欲を見せている。その点は、かつてライトヘビー級4団体統一王者だったアルツール・ベテルビエフにも通じる。
2025年初戦、フランスのピエール・ロサディニを7回KOで下す試合週に『ザ・リング・マガジン』の取材に応じたセインズは、「今年中にプロ初タイトルを獲れなければ失望だ」と語っていた。
そして本日、マッチルームとの複数試合契約の延長が発表され、念願のタイトル挑戦も決定。5月17日に行われるジョニー・フィッシャー対デイブ・アレン第2戦のアンダーカードで、7勝4敗のギデオン・オンイェナニと対戦し、サザンエリア王座をかけてリングに上がる。
25歳のオンイェナニが喫した4つの敗北はすべて判定によるもので、いずれも2022年に無敗のプロ3人を相手にしたもの、そしてもう1敗はタフなビラル・ファワズ戦によるものだ。ファワズは階級を下げ、今年1月にはイングリッシュ王座をかけた10回戦で注目株ジュナイド・ボスタンからダウンを奪い、引き分けに持ち込んでいる。
これまでのプロ戦歴では、オンイェナニが68ラウンド、セインズが29ラウンドと、経験値の差は大きい。セインズのアマチュア歴が限られていることを考慮すれば、今回の試合も非常に重要なテストとなるだろう。
「彼には試合での経験が必要なんだ。ジムで毎日学んでいるとはいえ、適切なタイミングで、適切な相手との試合を重ねなきゃいけない」と、セインズのヘッドコーチであるトニー・シムズは『ザ・リング・マガジン』に語った。
「今や彼はサザンエリア王座の指名挑戦者。だからマッチルームは、5月の次戦で10回戦の経験を積ませて、さらにステップアップさせる予定だ。長丁場を戦い抜いて勝つことで、今度はイングリッシュタイトルの挑戦者決定戦、そして秋ごろにはイングリッシュ王座を狙うという流れになる。それが今のプランだ」とシムズは語る。
ちなみに、セインズが前戦で倒したピエール・ロサディニも、今月中にキャリア初の10回戦を予定しており、スーパーミドル級に階級を上げて無敗のムスタファ・ザウーシュ(16勝0敗、6KO)と空位のフランス国内王座をかけて対戦することになっている。
BBBofC(英国ボクシング統括委員会)のサザンエリア王座は昨年10月、コンスタンティン・ウィリアムズ(7勝2敗、2KO)が獲得したものの、先月行われたリンナス・ウドフィアとの再起戦では、10回を通じて大差の判定負けを喫している。
一方、セインズのプロモーターでマッチルーム代表のエディ・ハーンは、さらに踏み込んで「年内にブリティッシュタイトルレベルまで到達可能だ」と語っており、ただしその実現に向けては慎重なマッチメイクが必要だとも付け加えている。
ロサディニは5ラウンドにダウンを奪われ、2ラウンド後にストップされたものの、最後まで手を出し続け、セインズに油断を許さなかった。それはこれまでの対戦相手の多くにはできなかったことだ。シムズをはじめとするチームは、その試合内容に満足している。
「まさに完璧な相手だった。前回の試合では23戦のキャリアを持つ(エストニアの)ドミトリ・プロトクナスを相手にしたんだけど、8勝しかしていなくて、それでも一度もKOされたことがなかった。でもジミーが2ラウンドで吹き飛ばしちゃったから、ラウンドを重ねる目的にはならなかった」
「それでロサディニを紹介された時、タフそうに見えたし、マッチメイカーから『ジミーに数ラウンドは与えてくれる』って言われてね。まさにそれが欲しかった。実力で上回る相手じゃなくても、ジミーのパワーに耐えて、7ラウンドでも反撃を試みるような相手。それが重要だった」
「次の試合は願わくば10回戦でのサザンエリア王座戦。今回の7ラウンドの経験は、必要な時に10ラウンド戦えるという自信につながる。プロとして成長途中の今こそ、そうした実戦の中で経験を積むことが大切なんだ」
現在、ハムザ・シーラズがスーパーミドル級への転向を予定しており、それに伴ってキーロン・コンウェイ、シャキール・トンプソン、タイラー・デニーといった中堅勢も階級の構図を再考するタイミングを迎えている。一方、元世界タイトル挑戦者のデンゼル・ベントレーは、再び世界王座に挑む機会を辛抱強く待っている。
シムズは、かつてほど層の厚くない現在のミドル級において、ジミー・セインズ、そしてコモンウェルス銀メダリストのジョージ・リッダード(22歳)という2人の有望株を抱えていることを幸運に思っている。
セインズは今回、複数試合契約の延長も発表し、次戦ではブリティッシュタイトルの挑戦者決定戦としてアーロン・サットン(19勝1敗、3KO)との対戦が決定。また、同じ興行には、コモンウェルス王者のキーロン・コンウェイも登場し、ジェローム・ウォーバートン(15勝1敗2分、2KO)と対戦する。
「今のミドル級には、かつてのような実力者がそろっているとは言い難い。以前はクリス・ユーバンクJr、ビリー・ジョー・サンダース、ジョン・ライダーが同時期にいて……その前にはダレン・バーカー、マーティン・マレー、アンディ・リー、マット・マックリンもいた。あの頃は本当に層が厚くて、世界トップ10に3〜4人入っていたほどだった」とシムズは振り返る。
「ジョージ(リッダード)の方がジミーより1年ほどタイトル戦線で先行しているかもしれないけど、2人ともまだ若くて、間違いなく明るい未来が待っているよ」
セインズ自身も、昨年ラスベガスでトレーニングを行い、コナー・ベンのアンダーカードに登場した経験を振り返って誇らしげに語っている。今年1月31日、O2アリーナのインディゴでの試合では、ベンとまるで呼吸を合わせるかのように拳を交えていた。
ベンは現在、4月26日にトッテナム・ホットスパースタジアムで行われる因縁の一戦、クリス・ユーバンクJr戦に向けて最終調整中。そんな中でシムズは、セインズとリッダードが共にアメリカでの試合を経験したことについて、「本当に素晴らしい経験だった」と語り、世界を見据えた視野の広がりを強調した。
ジョージ・リッダードは、WBC世界ジュニアミドル級1位のセルヒー・ボハチュク(25勝2敗、24KO)をはじめとする実力者たちとスパーリングを行い、セインズもメキシコやカザフスタン系のファイターたちを相手に自身の実力を試した。また先月には、同じくマッチルームに所属するスーパーフェザー級の有望株ジョルジオ・ヴィジオーリが、高評価のティーンエイジャーであるカーメル・モートン(7勝0敗、6KO)とスパーリングする様子も確認されており、こうした“海外武者修行”の流れが続いている。
「アメリカがもたらす雰囲気の変化を経験することが重要なんだ。多くの選手はスパーリングだけしてすぐに帰国するけど、彼らは実際に現地の興行で試合をこなし、ちゃんと報酬も得られた。それはきっと、今後のキャリアにおいて大きな財産になるはずだ」と関係者は語っている。