2025年最初のビッグファイトのひとつで起きた出来事ではあるが、コナー・ウォーカーが1月にハリー・スカーフを相手に見せた劇的な逆転勝利は、今年の“カムバック・オブ・ザ・イヤー”に選ばれる可能性すらある。
一方的な展開のまま第11ラウンドに突入し、ジャッジの採点でも大きく劣勢だった
ウォーカーだったが、そこで衝撃的な右の一撃を決め、流れを一変させた。そのまま一気に攻め立て、レフェリーが試合を止めるまでパンチを浴びせ続けた。
この勝利によって、ウォーカーは悲願の英国ウェルター級王座とコモンウェルス王座を手にした。
だが試合後の歓喜の中でも、ウォーカー(15勝3敗1分、6KO)は、自身の人生の夢を達成した興奮に飲み込まれることなく、巧みで滑らかなスタイルを持つスカーフを相手に、印象を残そうと必死に戦った最初の10ラウンドの苦闘を決して忘れなかった。
そして、栄光に浸ることなくウォーカーは“自らの快適ゾーン”から抜け出す決断を下す。スカーフ戦からわずか3カ月後、30歳のウォルバーハンプトン出身の彼は、長年師事してきたトレーナー、リッチー・ジェントと袂を分かち、マンチェスター郊外ウォークデンにあるジェイミー・ムーアのジムへの移籍を発表した。
この決断は軽いものではなかったが、“自分が本当の意味での限界に挑むためには必要な選択だった”とウォーカーは感じていた。
今週土曜、ウォーカーは英国王座の初防衛戦に臨む。同時に、ジェイミー・ムーアの指導の下で迎える初の試合でもある。対戦相手は
リアム・テイラー(28勝2敗1分、14KO)。この試合は、バーミンガムのbpパルス・ライブ・アリーナから、DAZNによって世界中に配信されるマッチルーム興行の一環として行われる。
「みんな本当にいい奴らで、すごく居心地がいいんだ。冗談も言い合えるし、何よりコーチングは最高だよ。経験も豊富だし、その環境に身を置いてるだけで自分がどんどん成長していくのを感じてる」と、ウォーカーは『
ザ・リング』誌に対し、ムーアのジムへの移籍について語った。
「今の自分に必要なのは“磨き上げること”だと思ってる。キャリアのこの段階では、もう新たに教えられることってそう多くはないからね。
これまでいろんなタイプのスタイルと戦ってきたし、複数のトレーナーのもとでも経験を積んできた。各トレーナーから少しずつ吸収してきたけど、ジェイミーとナイジェルのいいところは、“余計なものを削ぎ落として、基本に立ち返る”ことに集中してくれる点だよ。そして結局、試合を制するのはその“基本”なんだ。」
ジムの移籍は、いつだってリスクを伴う。どれだけ相性が良さそうに思えても、実際に数週間一緒に練習してみなければ、本当にフィットするかは分からない。
幸いなことに、ウォーカーは新しい環境にすぐ順応できた。
「初日からまるで電気がついたみたいだったよ」と彼は語る。「最初の6〜8週間でミットのリズムやタイミング、指導スタイルの理解に集中して、そこからさらに8週間、試合に向けた本格的なキャンプに入った。試合当日までには、必要なことをすべてこなせる状態になるよ。
ナイジェルとジェイミーが教えてくれることは、スパーリングでも完璧に実行できてるんだ。」
ウォーカーは、スタイルだけでなく精神面でも“昔気質”のファイターだ。これまでも、自分の前進に繋がるなら147ポンド級で誰とでも戦う姿勢を貫いてきたし、それは今後も変わらない。新チームに慣れるために“調整試合”を求めるようなことは一切せず、迷うことなく指名挑戦者であるマンチェスターのリアム・テイラーとの初防衛戦に臨む道を選んだ。
テイラーは2019年、惜しくも英国王座を逃しているが、その後は活動が停滞。今回が34歳の彼にとって、王座挑戦のラストチャンスとなる可能性が高い。ウォーカーとテイラーは過去にスパーリングで拳を交えており、ウォーカーも“厳しい一夜になる”ことを覚悟している。
「聞いてくれ、俺はそういう雑念を試合に持ち込むつもりは一切ない」とウォーカーは語る。「ただ、またタフな試合に向けて自分を仕上げてるだけだ。英国タイトルを懸けて戦うってことは、相手もそれを本気で獲りに来るってことだからな。彼(テイラー)は運に恵まれなかった部分もあるけど、俺が見ているのは“豊富な経験を持つ実力者”って点だけだ。
彼は3月にジェイミー・スチュワートと試合をしていて、しばらくのブランクも解消してるはずだ。きっとキャリア最高の状態でリングに上がってくるだろう。俺自身、英国タイトルを獲るためにどれだけハードなトレーニングを積んだかを知ってる。このベルトは、世界タイトルを除けば英国では最も権威あるタイトルだと俺は思ってるし、多くの英国人もそう感じてるはず。だから、最高のリアム・テイラーを想定してるよ。相手が何を出してきても、全部受けて立つ。」
現在では、英国タイトルは“大きな舞台への通過点”や、“他のチャンスがあればスキップしても構わないベルト”のように見なされがちだ。そのせいで、多くの英国人選手が野心と実力を兼ね備えた国内の強豪たちと戦う経験を積まないまま、世界戦線の端にたどり着き、厳しさを知ることになる。
だがウォーカーは、若い頃からこのベルトを獲ることを夢に掲げ、その夢を叶えるまでに険しい道のりを歩んできた。そして今週末、その防衛に成功すれば、さらに大きな目標へと視線を向けるつもりだ。
「信じられない気持ちさ。『英国チャンピオン』として認められるなんてね」とウォーカーは語る。「ずっと夢見てきたことだった。
試合週が終わったあとには達成感がある。でも結局は“次は何だ?”って話になるんだ。
ずっと言ってきたけど、俺にとってのゴールは英国タイトルの獲得だった。それを達成した今、次に目指すのはただひとつ──世界タイトルだ。ただし、今は目の前のリアム・テイラーに集中してる。まずは彼を倒さなきゃ、何も語れない。
俺は自分の快適な環境から抜け出して、トレーナーを変えて、地元を離れて生活して、必死にトレーニングしてる。俺の人生はいつだって“次の課題”に向かってる。この仕事の栄光に浸って立ち止まるようなことはしない。常に“次は何だ?次はどこだ?”って考えてる。
試合週を楽しむのはいい。でもその先には、また次の戦いが待ってるんだ。」