ヒルベルト・ラミレスとの激しい12ラウンドの死闘、骨折した拳、左目上の傷に入れられた複数の縫合、そしてメキシコ人選手に敗れたことで確定したWBOクルーザー級王座の喪失――それらすべてを超えて、クリス・ビラム=スミスにとって最もつらかったのは、地元ボーンマスに戻ってからの出来事だった。
その“相手”は、メキシコの身長188cmのサウスポーとは違い、身長はわずか約90cm、靴ひもすら結べない幼い存在だった。
「たぶん、それが一番つらかった瞬間だったと思う」とビラム=スミスは『ザ・リング・マガジン』に語った。「月曜日、自宅で寝ようとしていたとき、妻が息子のフランクを保育園から連れて帰ってきたんだ。
家の中で彼を迎えるのを楽しみにしていて、ただギュッと抱きしめたかった…でも、彼は抱きついてくれなかった。その瞬間、心の中で『ああ、やばいな』って思ったよ。」
「彼は僕の顔を一目見て『パパ、痛いのイヤ』って言ったんだ。試合が終わって、日曜も月曜もずっと『早くフランクを抱きしめたい』ってそれだけを考えてたのに、いざ会ったら、彼は抱きついてくれなかった。
あれは本当につらかった。すべての中で一番きつかったよ。数日間そんな感じが続いて、彼は『パパの痛いのイヤ』って言い続けていて、僕も『うん、僕だってイヤだよ!』って思ってた。
あれはまるで追い打ちをかけられたような感じだった。わかるだろ?まさに“最後の一撃”ってやつだ。」
多くのボクサーと同じように、若い家族を養うためにビラム=スミスは戦っているが、ラミレスに敗れるという現実がどれだけ厳しいものかは、彼自身が一番よく分かっていた。
WBO王座に加えて、ラミレスのWBA王座を統一する勝利を挙げていれば、『ザ・リング・マガジン』とIBFの王者ジャイ・オペタイアとの高額マッチがほぼ確実に実現していただろう。しかし現在そのチャンスを追っているのはラミレスであり、ビラム=スミス(CBS)は再び頂点を目指す別の道を模索しなければならない。
「家族の立場からも、金銭的な立場からも、大きな変化があった」とビラム=スミスは語る。
「ファイトマネーの割合の違いは本当に大きい。もし勝っていれば、次の試合でファイトマネーは大幅に増えていただろうし、それはまた別の統一戦だったかもしれない。でも実際は敗けてしまって、リヤドでの試合よりも大きく下がることになった。全体の差を考えると、ものすごく大きい。」
「でも、負けたのは自分だ。自分の責任だから、ちゃんと受け止めなきゃいけないし、前に進まなきゃいけない。ただ同時に、あの夜、自分の中のどこかでは『もうこれ以上は無理だ』ってわかってたんだと思う。エネルギーはもう残ってなかった。本当に出し切った。
だから後悔はない。今は再び立て直して、もう一度挑戦することだ。
クリス・ビラム=スミスは、リヤドでの激闘以来初の復帰戦として、4月26日にトッテナム・ホットスパー・スタジアムで開催される『ザ・リング・マガジン』主催のイベント「Fatal Fury: City of the Wolves」に登場し、ブランドン・グラントンと対戦する。両者ともに戦績は20勝2敗で並んでおり、注目の一戦だ。ボーンマスのヴァイタリティ・スタジアム、ロンドンのセルハースト・パークに続き、ビラム=スミスにとって5戦中3度目の屋外スタジアムでの試合となる。これまでの2戦は勝利している。
「スタジアムでの試合は本当に好きなんだ」と彼は言う。「4月はこのような大きな興行で、たくさんの注目を集められる良いタイミングだと考えた。厳しい試合になるのは確かで、相手はWBCランキング5位、僕は4位。だから勝った方が次の挑戦権に近づくと思う。
引退はまったく考えなかった。しばらくボクシングのことを考える余裕はなかったけど、それでもボクシングを続けたい気持ちははっきりとあった。」
「不思議なことに、新しいモチベーションが湧いてきたんだ。今までは、自分に合ったやり方を貫いて、それで十分だったから、弱点をそれほど修正しようとは思わなかった。強みで弱みを補えていたからね。
いろいろな面で“ごまかせて”きたけど、それはラミレスには通用しなかった。だから試合を終えて思ったんだ――『やばい、もっと学ばなきゃいけないことがたくさんある』って。今はとにかく、学んで成長することが全てだ。単にタフで、力強くて、手数が多いだけじゃなくて、もっと総合的に完成された選手にならなきゃいけない。
もう“世界王者”じゃないっていうのは辛いよ。“元”って言われるのを聞くのは、やっぱりキツい。でも、それを“2度目の世界王者”に変えるために、何をすべきかはわかってる。」