アーチー・シャープは、キャリアを変えるような大きなチャンスを何年も待ち続けてきたが、その機会はなかなか訪れなかった。
彼の名前が初めてWBO世界ジュニアライト級ランキングのトップ5に登場したのは2019年11月のこと。そして2年後にはついに1位にまで上り詰めた。
忍耐は美徳かもしれないが、30歳となったアーチー・シャープがチャンスを待ち続けた結果、世界タイトル戦はむしろどんどん遠のいていった。
そして昨年7月、ついにシャープはその“待つ姿勢”に見切りをつけた。
世界タイトル戦の機会がすでに遠のいていることを悟り、自身の存在感を保つためには意味のある勝利が必要だと気づいたシャープは、WBOランキング3位の座をリスクにさらして、実力派
ライアン・ガーナーとの試合を受け入れた。しかし試合は思い通りに運ばず、判定での完敗を喫することとなった。
今年初め、病気により、ライアン・ガーナーの欧州タイトル戦(ボーンマス)アンダーカードで予定されていたリアム・ディロンとの復帰戦を欠場せざるを得なくなったシャープ。落胆した彼は、ファイトウィークのイベント取材のために南海岸へ向かう準備をしていたところで、一本の電話が鳴った。
まったく予想していなかったタイミングで、アーチー・シャープ(25勝1敗、9KO)に対し、世界ランク入りしているライト級のマキシ・ヒューズ(28勝7敗2分、6KO)との試合のオファーが届いた。舞台は5月23日、ドンカスターのキープモート・スタジアム。
シャープは、二つ返事でこのチャンスを受け入れた。
初めて世界ランク入りの本格的な相手と対戦するだけでなく、30歳のシャープにとってはこれが正式な135ポンド級デビュー戦ともなる。しかし彼は不安を抱くどころか、むしろ「本来ならずっと前からこのレベルで戦うべきだった」と証明できるチャンスに胸を躍らせている。
「すべての出来事には意味があると強く信じている。“プロセスを信じろ”、ってやつさ。結局はタイミングがすべてなんだよ」とシャープは
『ザ・リング・マガジン』に語った。
「130ポンドではずっと無理をしていたんだ。自分でもそれは分かっていたけど、ずっと“ニンジン”をぶら下げられているような感覚でしがみついていた。だって、自分の名前は2年間もWBOのランキング1位にいたことで、
シャクール・スティーブンソンやオスカー・バルデスといったビッグネームたちと並んで語られていたからね」
「世界タイトルを獲ってからライト級に上がるつもりだったんだ。それが自分の計画だった。ところが、あのガーナー戦があって、ああいう結果になって、そこからライト級へ転向することになった。」
「それからしばらくは“次に何があるんだろう”と考え込んでいたところで、マキシ・ヒューズが試合相手を探しているという話が耳に入った。そこから12時間以内に、すべてが決まった。契約して、サインして、発表まで一気に進んだよ」
「もう準備はできてる。ここからが本番だよ」
シャープがイギリス国内の強豪たちを次々と下し、WBOランキングを駆け上がり始めてから、すでに6年以上が経つ。巧みなマネジメントとマッチメイクにも後押しされ、彼はついにWBOランキングのトップにまで上り詰めた。
多くの人が「シャープはチャンスをただ待ちすぎた」と批判するかもしれない。確かに、その機会はいつも手の届きそうで届かないままだった。しかし同時に、彼がランキングを駆け上がるのに役立ったボクシング界の“政治”が、今度は彼の足かせとなっていたのもまた事実だ。
多くの選手は、世界の舞台で結果を残せなかった後、再起を図るために国内レベルへと戻っていく。しかし、シャープがガーナーやディロンとの試合に対して感じていたフラストレーションの根底には、「自分が本当はどこまで通用するのか」を確かめる機会すら与えられなかったという事実があった。
マキシ・ヒューズとの対戦を受け入れたことで、シャープの中で消えかけていた闘志に再び火がついた。
「トレーナーのリチャード(ソーヤー)がこの前言ってたんだ。『リヨン・ウッドストックと戦ったとき以来、こんな高揚感や充実したキャンプはなかったと思う』ってね」とシャープは語った。
「あれは2018年のことで、自分にとって初めてのタイトル戦だった。あの試合で自分の名前が広く知られるようになったし、今回と同じようにオッズでは不利だった。たしか、当時も今回も4対1のアンダードッグだったはずだ。」
「だから、さっきも言ったけど、すべてのことには意味があると思ってる。自分にとっては、まさに今がその時だ。ちょうど30歳になったばかりだけど、体も気持ちもすごくいい状態だよ」
「自分はビッグネームたちと肩を並べたいし、マキシ・ヒューズのような相手と戦うことこそが、朝ベッドから飛び起きる原動力になるんだ。」
「分かってるよ、自分の“ベストの状態”で臨まなきゃいけないって。才能だけに頼るわけにはいかない。すべてを完璧に仕上げる必要があるんだ」
マキシ・ヒューズは、かつて引退へと向かっているかのように思われたキャリアにおいて、今まさに“インディアン・サマー”とも言える充実期を迎えている。
35歳となった現在、マキシ・ヒューズはライト級の世界ランキング上位の常連となっている。2024年3月には、現WBC暫定王者
ウィリアム・セペダとの一戦で残念ながら一方的な内容で敗れたが、その後は見事に立て直し、昨年12月には危険な相手であるギャリー・カリーを圧倒するパフォーマンスを見せ、キャリア最高とも言える内容で再評価を得ている。
シャープは、ヒューズから学ぶべき点が多いと感じている。ヨークシャー出身のヒューズが持つボクシングIQや的確なパンチセレクションは高く評価しているが、それ以上に、自身も苦しみとフラストレーションを味わってきたからこそ、ヒューズがあきらめることなく努力を重ね、ついには主要タイトル戦線に名を連ねるまでに至ったその姿勢に深い敬意を抱いている。
シャープは、自身の持つスキルセットが、ヒューズにとってまったく異なるタイプの難題を突きつけることになると確信している。年上のヒューズの得意とするスタイルに付き合って前に出るのではなく、足と頭の両方を使わせるような展開に持ち込み、自らの土俵に引き込むことを狙っている。
「俺はマキシの大ファンなんだ。ずっとそうだった。彼は素晴らしい人間だし、優れたテクニシャンで、本当にいいファイターだ。だからこそ、自分もベストの状態で臨まなきゃいけない」とシャープは語った。
「でも彼はまだ、フットワークとスピードがあって、型にはまらないスタイルの相手とはやっていないと思う。これまでの相手は、みんな似たようなタイプばかりだったからね」
「ギャリー・カリーは非常に背が高いサウスポーだけど、少し脆さがある。前足に体重をかけすぎて前に出ていったところを、マキシに毎回打ち抜かれていた。ああいう場面でのマキシは、本当に、ものすごく巧いんだ」
「この試合はすごくいいチャンスだと思ってる。マキシはライト級の中でも本当にやっかいな存在で、みんなが避けてきた相手。だからこそ、そんなマキシを相手に勝って、しっかりインパクトを残せば、自分も一気にトップ戦線に食い込めるはずだよ」